中小ビルのマンション化が進む!都心再編のいま【後編】

前編では、中小オフィスビルの空室化や老朽化を背景に、マンションへの転用が進む実態を紹介しました。
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後編では、マンション化による投資への影響と、中小ビル再生から見据えた都市部の未来について詳しく解説します。
交錯する住宅価格の行方
近年の金利上昇で、住宅購入者が借りられる可能額を少なくさせています。
しかし、建材や人件費の値上がりでマンションを建てるコストは高くなっており、今後価格が大きく下がることはあまり期待できません。
特に都心の人気エリアでは、マンションの供給が少なく需要が高いため、希少性によって価格が支えられている状態が続いています。
ただし周辺エリアでは新規供給が増えて、価格調整の動きが出る可能性も否定できません。
今後は、立地や駅距離などによる「価格の二極化」がより鮮明になると予測されます。
マンション化進行が投資判断に与える影響
オフィスからマンションへの転用が進むと、賃料相場や地価、利回りにも確実に波及します。
人気エリアでは高値が維持される一方、都心周辺では賃料の調整が進むなど、エリア間の需給バランスの変化が投資判断を左右するでしょう。
投資家にとって重要なのは、単なる表面利回りではなく、人口動態・交通インフラ・再開発計画といった中長期のファンダメンタルです。
短期の価格変動に一喜一憂するより、都市全体の構造変化を見据えた立地戦略こそが成功の鍵といえます。
住宅転用のメリットと課題
住宅転用の進行は、街に新しい息吹をもたらします。
生活者が増えることで商業施設や公共交通が活性化し、行政サービスの効率化も進むでしょう。
とくに単身者やDINKS層にとっては、職住近接を実現できる住環境が整う点が大きなメリットです。
一方で、2050年ごろには東京都心の人口がピークを迎えるとされ、その後は減少局面へ入る見通しです。
人口減少と高層化・高密度化が同時進行するなかで、駐車場不足や保育・教育施設の逼迫、公共インフラの負担増といった問題が顕在化していくでしょう。
とくにマンションが都心に一極集中すれば、地域バランスが崩れ、生活環境の質が揺らぎかねません。
さらに、高密度化は防災性や気候変動対応の面でもリスクを孕みます。
いかに密度と快適性を両立させるかが、今後の都市政策の最大のテーマとなりそうです。
中小ビル再生が描く未来像
空室の増えた中小オフィスビルを、住宅・店舗・文化施設などが共存する「ミクスドユース型」へ転換する動きも広がっています。
これは中小ビルを再生するだけでなく、多様な人々の交流を生み出すことで、より人間中心の都市を実現するチャンスにもなり得ます。
中小ビル再生のメリットと課題
中小ビルには、最新ビルにはない個性と自由度が魅力です。
コンクリート打ちっぱなしの内装や開放的な屋上、可動窓のある空間など、クリエイターやスタートアップに好まれる要素が多く見られます。
また、オフィス家具や内装業など既存の関連産業との連携によって、地域雇用を守る効果も期待できるでしょう。
ただし、清潔感・耐震性・安全性といった基本性能の確保は絶対条件。
見た目だけを整えても稼働率は上がらないため、ハード面の改修と柔軟な運営・テナント誘致戦略の両輪が求められます。
中小ビルの再生事例
最近では「再生して稼ぐ」動きが広がりつつあります。
- コクヨは「自社ビル一棟まるごとリノベーションサービス」の提供開始や、台東区蔵前で既存ビルを再生し、収益化を図る新プロジェクトを始動するなど、エリアの価値向上に寄与する活動をしています。
- 丹青社は「R2プロジェクト」を立ち上げ、中小ビルをリノベーションし、スモールオフィスやコワーキングスペースとして再活性化。
- 株式会社リアルゲイトは、1977年竣工のビルをリノベーションし、「LAIDOUT SHIBUYA」を開業。オフィス・ショップ・ギャラリーを融合したクリエイター向け複合施設として注目を集めています。
単なるリノベーションではなく「働く」「暮らす」「集う」を融合させた新しい都市の使い方が、静かに広がり始めているのです。
まとめ
不動産市場はいまも都心回帰の流れが続いています。
とはいえ東京で進む中小ビルのマンション化は、単なる用途転換ではなく、都市の価値観そのものが変わる兆しでもあります。
これからの都市に問われるのは「経済合理性」だけではなく、多様な人々が交わり、働き、暮らし、学んでいける。そんな「人間中心の都市」への転換こそが、これからの東京を豊かにする道筋と言えるでしょう。
