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2025/11/18 09:23

中小ビルのマンション化が進む!都心再編のいま【前編】

東京都心で、中小規模オフィスビルをマンションへ転用する動きが加速しています。
なぜオフィスが姿を消し、住宅へと生まれ変わっているのでしょうか。
前編では、マンション化が進む背景と課題について解説します。

 

マンション化が進む背景

 

イマックス総研の推計によると、東京23区内の中小ビル(延べ床面積990〜1万6500㎡)は2025年末時点で約8,700棟となり、10年前から400棟以上減少する見込みです。
この流れによって東京都心の中小規模オフィスでは、空室率の上昇と賃料の下落が続いており、特に築20年以上の物件では特に入居者離れが顕著で、駅から離れた立地ほど空室リスクが高まっています。

 

競争力の格差拡大

 

この背景には、大型再開発による競争環境の変化があります。
森ビルなど大手デベロッパーが供給する高層オフィスに大企業が集約しており、最新設備を備えた新築ビルには人気のテナントが次々と入居しています。

一方では築年数が経ち、立地がそこそこの中小ビルでは、テナント誘致が年々厳しくなってきました。
このように相次ぐ大口テナントの退去により稼働率が落ち、住宅やタワーマンションへの転換が一層活発化しています。

 

膨らむ修繕費と資金の壁

 

国土交通省の「建築物の耐震改修事例データベース」によると、老朽化したオフィスビルを維持するには、耐震補強や設備更新など数千万円規模の修繕費が必要になります。
さらに、近年の資材高騰や人件費上昇により建設コストは上昇を続け、建て替え時の建設費は坪150万円を超える水準に達しました。(出典:国交省「建築着工統計調査」)

そこに加えて、テナントの立ち退き費用や解体コストもオーナーに重くのしかかります。
銀行融資も建設資金に限定されることが多く、立ち退き費用は自己負担となるケースが一般的です。
十分な手元資金を持たないオーナーにとって、老朽オフィスを維持するより、住宅に転用して再生するほうが、より現実的な選択肢となってきています。

 

オーナーの高齢化と承継問題

 

中小ビルのオーナーは高齢化が進み、後継者不在のケースも増加しています。

多くのオーナーはビルを担保に本業資金を借り入れており、新たな修繕や建て替えのための資金調達が難しいのが実情です。

老朽化が進む一方で賃料は上がらず、修繕費ばかりが膨らむ。

そうした現実を前に、相続予定の子世代が「引き継ぎたくない」と考えるケースも少なくありません。

結果として、相続や承継のタイミングで銀行の差押えや競売に至る事例もあります。

再生できないビルが放置されれば、都市のスラム化リスクを招く恐れがあります。
治安の悪化や地価の下落を招くおそれもあり、行政やデベロッパーにとっても無視できない課題です。

こうした中でデベロッパーが「等価交換方式」で土地を取得し、マンション開発を進めるケースが増えています。
建て替え後の建物の一部をオーナーが所有できるこの仕組みは、老朽ビルを抱える高齢オーナーにとって現実的な出口戦略といえるでしょう。

 

テレワーク定着によるオフィス需要の構造変化

 

働き方改革とテレワークの定着も、オフィス需要を押し下げる大きな要因です。
大企業は本社機能を最新ビルに集約し、中小企業はコスト削減を目的に小規模・高機能な拠点へ移転しています。
その結果、旧来型の中小ビルは入居率・収益性の両面で競争力を失っているのです。

 

「オフィスより住宅」変わる都心の価値基準

 

一方で、都心の住宅需要は依然として旺盛です。
2025年上半期の新築マンション供給戸数は前年同期比11%減と4年連続で減少しましたが、23区の平均販売価格は1億円を超え、過去最高を更新しました。
住宅が足りずにオフィスは空室が目立つというこの状況は、「住宅需要がオフィス需要を上回る」ことを鮮明に示しています。

総務省によると、東京都23区の転入超過数は2022〜24年の3年間で約13万4,000人。
単身者やDINKS(子を持たない共働き夫婦)の増加により、駅近や利便性の高い立地の住宅ニーズは高まっています。
職場と自宅の距離を近づけたいという価値観の変化が、老朽オフィスの住宅転用をさらに加速させています。

 

まとめ

 

東京都心での中小ビルのマンション化は、住宅需要が高い都心では今後も進行していくでしょう。

しかしこの流れが加速すれば、企業活動の地方・海外流出によるオフィス機能の空洞化や、 一極集中・過密化によるリスクの拡大も無視できません。

いま求められているのは、個々の建物単位の判断ではなく「エリア全体をどう再生するか」という都市戦略的な視点です。

次回の後編では、中小ビル再生の方向性を掘り下げ「マンション化が進む都心の未来」を探ります。

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