今さら聞けない関税とは何か?トランプ関税から見た日本の今後【後編】

前編では、関税の仕組みと本来の役割について整理しました。
<関連記事> 関税とは何か?トランプ関税から見た日本の今後【前編】
後編では、現在も進行形で世界に影響を及ぼしている「トランプ関税」を通じて、
関税がどのように経済政策から「政治の武器」へと変質したのかを見ていきます。
関税が持つ政治的な破壊力、
そしてそれを回避するために各国が支払った「代償」とは何だったのか。
日本の立場から掘り下げていきましょう。
トランプ関税ショックとは何だったのか
2025年、再び政権の座についたトランプ大統領は、世界に向けて「ユニバーサル・ベースライン関税(一律の基本関税)」の導入を宣言しました。

これは同盟国かどうかを問わず、原則としてすべての輸入品に高関税を課すという、極めて強硬な方針です。
この決定が世界に与えた衝撃は、単なる関税率の高さではありませんでした。
最大の問題は、政治判断ひとつで貿易ルールが一夜にして変わり得るという不確実性が、世界経済に突きつけられた点にあります。
自由貿易を前提に築かれてきた国際経済秩序は、この瞬間、大きく揺らいだのです。
トランプ政権はなぜ関税を多用したのか
トランプ氏が繰り返し口にした言葉が「ディール(取引)」です。
関税は税収手段ではなく、
「米国内での生産・投資を拡大せよ」
「アメリカ国内での雇用創出に、具体的なコミットメントを示せ」
「通商・投資・安全保障を含む分野で、アメリカ側の条件を交渉材料として受け入れよ」
これらの要求を飲ませるための、交渉の人質として使われました。
日本が勝ち取った「15%」と、その代償
当初、トランプ政権は日本に対しても24~25%の高関税を示唆していました。
これが現実化すれば、日本の基幹産業である自動車分野への影響は壊滅的だったと見られています。
最終的に日本は、関税率を「15%」に抑えることで合意にこぎ着けました。しかし、この数字は無償で得られたものではありません。
80兆円投資という代償
この「15%」を引き出すため、日本政府と主要企業は、大規模な対米投資と雇用創出を事実上の条件として提示しました。
トヨタやホンダをはじめとする日本企業は、米国内の工場建設やEV・電池分野に対し、
最大80兆円規模とされる投資枠組みへの関与を約束しています。
この枠組みで重要なのは、実際の資金拠出の中心が日本側である点です。
米国側は、土地提供や規制緩和、エネルギー供給といった現物・制度面での貢献を行う一方、キャッシュの投入は日本側が担う構造となっています。
投資効率より関税回避の選択
さらに、利益配分の設計も日本にとって有利とは言えません。
日本側が拠出した最大80兆円については、元本と利子を回収するまで日米で利益を50:50で分け合う仕組みとされています。
単純計算すれば日本が80兆円を回収するためには、プロジェクト全体で約160兆円以上の利益が必要になります。
つまり、この合意は日本の経済合理性よりも、関税による打撃を避けることを優先したのです。
米中貿易戦争と世界経済への波及
また、最も激しく衝突したのが中国との関係です。
アメリカがハイテク製品などに制裁関税を課すと、中国は大豆などの米国産農産物に報復関税を発動しました。
この応酬によって貿易コストは急増し、世界経済全体が冷え込みました。
一時は関税率が145%に達した局面もありましたが、現在は約20%水準で落ち着いています。
ただし、対立そのものが解消されたわけではありません。
サプライチェーン再編という長期的影響
結果として、トランプ関税がもたらした最大の構造変化は、サプライチェーンの再編です。
企業は「いつ、どこに関税が課されるかわからない」というリスクを避けるため、中国一極集中か
ら、ベトナムなどへ生産拠点を分散させ始めました。
効率性よりも安全性を重視する、グローバル経済の分断(デカップリング)が進んでいます。
トランプ関税で変わる日本の課題
いまや関税は単なる税金ではなく、国家間のパワーゲームの中心的ツールです。
日本に求められるのは、
「日本にしか作れない技術・部品」を磨くこと。
関税をかければ、かけた側も困る関係を築くこと。
特定国への依存を減らし、経済圏を分散させること。
要求に受動的に応じ続けるのではなく、こうした取り組みを通じて相手にとっても「失うものがある」状況をつくり出せる強みを、戦略的に育てていくことが重要です。
まとめ
前編・後編を通じて見てきたように、関税はもはや単なる「輸入品への税金」ではありません。
物価、雇用、産業構造、そして国家間の力関係を左右する巨大な装置です。
関税という「古くて新しい武器」が飛び交う世界で、日本がどう生き残るのか。
それは単に守ることではなく、ルールと信頼をつくる側として、国際経済の未来に関わり続けられるかどうかにかかっています。
