
前編では、2025年が日本におけるインパクト投資の「社会実装元年」とも言うべき転換点であったことを整理しました。
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後編では議論を一歩進め、2025年に実際に起きた実践事例を通じて、インパクト投資がどの段階に入ったのかを見ていきます。
かんぽ生命 × 三菱UFJ信託銀行
2025年を象徴する取り組みの一つが、かんぽ生命と三菱UFJ信託銀行による、国内上場企業を投資対象としたインパクト投資ファンドの運用開始です。
この事例が注目された理由は、大手金融機関同士が組んだ点ではなく、投資思想として「システムチェンジ志向」を明確に掲げた点にあります。
システムチェンジ志向と基本概要
上場企業が持つ資金力、人材、サプライチェーンの影響力を活用し、社会全体に変化を波及させるという発想のもと、単に「良いことをしている企業」に投資するのではなく、社会の構造そのものを変える力を持つ企業を支援することを目的としています。
強力なパートナーシップ(SIIFの役割)
運用には、日本のインパクト投資を牽引してきた社会変革推進財団(SIIF)がアドバイザーとして関与しています。
かんぽ生命が資金を出し、三菱UFJ信託銀行が運用し、SIIFが知見を提供するという三者による連携は、国内上場企業の力で社会構造にアプローチする実践モデルとして、大きな注目を集めました。
休眠預金活用事業における「出資」の本格化
2025年もう一つの大きな転換点となったのが、休眠預金活用事業における「出資型スキーム」の本格始動です。
これまで休眠預金は、NPOや社会的事業者への助成金活用が中心でしたが、2025年にはより長期的・構造的な課題解決を目指す手段として「出資」が本格化しました。
出資型スキームの基本構造
- 原資:10年以上出し入れがない「休眠預金」
- 仕組み:指定活用団体(JANPIA)から選定された資金分配団体が、社会課題解決に取り組む企業(実行団体)へ株式取得などの形で出資。
この出資型スキームの特徴は、単に「良いことをしている企業」を支援するのではなく、社会の構造そのものを変える力を持つ事業を育てるという投資思想にあります。
そのため、エグジットにおいても、単なる売却益の獲得を目的とせず、社会性を維持したまま事業が自立・成長していく形での持続的な解決が重視されています。
国が制度として休眠預金を活用し、リスクマネーを供給したことは、市場に対する明確なシグナルとなりました。その結果、地方銀行やベンチャーキャピタルも、これまで「収益化が難しい」と敬遠していた福祉や地域課題、不登校支援といった分野へと投資の目を向け始めています。
官民連携で挑むアフォーダブル住宅
2025年には、大手不動産会社、メガバンク、海外機関投資家が連携したアフォーダブル住宅専門ファンドが相次いで立ち上がりました。
公有地の活用や低利融資といった行政の支援に、民間のインパクト投資マネーを組み合わせることで、社会的意義と一定の投資リターンの両立が図られています。
「アフォーダブル住宅」とは
- 一般的に、家賃が世帯収入の30%程度に収まるよう設計された賃貸住宅を指します。
- 主な対象は、保育士、看護師、介護士などのエッセンシャルワーカーや若年層世帯です。
支援ではなく投資で向き合う住宅課題
従来の助成金スキームには、いくつかの限界がありました。それを乗り越えるために導入されたのが出資型です。
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継続性の担保
助成金は使い切れば終わりますが、出資は事業が成長すればリターンとして戻り、その資金を次の社会課題解決に再投資できます。ここに「資金の循環」が生まれます。 -
リスクマネーの供給
社会課題解決型ビジネスは、収益化までに時間がかかるため、一般の銀行融資を受けにくい傾向があります。休眠預金を呼び水として投じることで、民間資金を呼び込みやすくなります。 -
ガバナンスと伴走支援
株主として経営に関与することで、資金提供にとどまらず経営のプロとして、事業成長を支える伴走支援が可能になります。
具体的な動きとインパクトの可視化
家賃の安さだけでなく、通勤時間の短縮、断熱性能による光熱費削減、子育て支援施設の併設などが、居住者のウェルビーイングに与えた影響を数値化し、投資家に報告する仕組みが導入された点です。
住宅を「不動産商品」ではなく「社会インフラ」として再定義する動きが、ここに明確に表れました。
まとめ
2025年を経て、インパクト投資は次の段階に入りました。それは、「誰を、何を、どの構造から守り、支えるのか」という問いを、より多くの資本の担い手が自ら引き受けるフェーズです。
インパクト投資は、もはや一部の専門家だけのものではありません。
不動産投資家を含むすべての投資家が、自らの資本が社会に与える影響を自覚する時代に入っています。
2026年、その問いにどう向き合うかが、投資家としての「質」を静かに分けていくことになるでしょう。
