遺族年金改正の背景と法改正の全体像【後編】

前編では、遺族年金の基本的な仕組み・制度の問題点・改正の目的について解説しました。
後編では具体的にどのような制度改正が行われ、誰が対象となるのかを詳しく見ていきます。
有期給付の拡大と加算制度
今回の改正で最も影響を受けるのは、18歳年度末までの子どもがいない30歳以上60歳未満の女性です。
従来は一生涯受給できていた遺族厚生年金が、5年間の有期給付に縮小されます。この対象年齢は現在30歳以降が生涯受給が可能でしたが、段階的に引き上げられていく見込みです。
一方、18歳年度末までの子どもがいない55歳未満の男性は、現行制度では遺族厚生年金を受けられませんでしたが、改正後は5年間受給できるようになります。
改正前の制度概要
- 30歳未満の妻(子なし):遺族厚生年金は5年間の有期給付。
- 30歳以上65歳未満の妻(子なし):無期限で遺族厚生年金を受給。
- 中高齢寡婦加算:40〜65歳まで年額62万3,800円を上乗せ。
- 55歳未満の夫(子なし):遺族厚生年金なし。
- 55歳以上の夫(子なし):60歳以降になったタイミングから無期限で遺族厚生年金受給。
- 生計維持要件:遺族の年収850万円以上(所得655.5万円以上)の場合は支給なし。
改正後の制度概要
- 男女を問わず60歳未満で死別した場合 、 有期給付(原則5年間)へ変更 ※女性は段階的に給付齢の引き上げ(2028年からは40歳~。)
- 低所得や障害がある場合は給付継続の特例あり。
- 有期給付の年金額は現行より約1.3倍に増額を検討中。
- 生計維持要件(年収850万円制限)は撤廃。
- 中高齢寡婦加算は25年かけて加算額を減額していき、段階的に廃止。
改正によって男女平等化が進みますが、従来「終身給付」を受けられていた多くの層が「有期5年」に制限されるため、大幅な給付縮小といえます。

※厚生労働省より引用
死亡時分割制度の導入
新たな配慮措置として「死亡時分割制度」が導入されます。
これは、亡くなった方の収入が配偶者よりも多かった場合、死亡した際にその婚姻期間に対応する厚生年金記録の半分を遺された配偶者に分割し、自身の老齢厚生年金に上乗せできる仕組みです。
(離婚するときに年金記録を分割しますが、それに似たような仕組みです。)
すなわち「遺族年金を減らす一方で、自身の老後年金を増やす制度」でもあり、長期的には老後の生活保障を強化する狙いがあります。
中高齢寡婦加算の廃止
現行制度では「40~65歳の子のいない妻」に対して、遺族厚生年金に年額62万3,800円(令和7年度)を加算する「中高齢寡婦加算」があります。
この制度は中高齢の寡婦は配偶者の死亡後に、就労することが困難であることに着目してつくられたものでした。
しかし女性の就労率上昇や男女差解消の観点から、この制度は段階的に廃止される予定です。
子のある家庭への影響
今回の改正の中心は「子のいない配偶者」ですが、子のいる家庭にも影響があります。
従来は子が18歳到達年度末を迎えた後に中高齢寡婦加算に移行できましたが、この仕組みが段階的に廃止されていくため、子が独立した後の保障は縮小します。
なお、令和7年4月分から遺族基礎年金は次のように改定されます。
基本額:年額831,700円
子どもの加算:1人につき年額281,700円に引き上げ。(改正前は1人目・2人目234,800円、3人目以降 ∔78,300円)
例:子1人を養育している場合 → 年額1,113,400円を受給。
見直しの影響を受けない方
- 既に遺族厚生年金を受給している方。
- 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方。
- 18歳年度末までのこどもを養育する間にある方の給付内容。
- 2028年度に40歳以上となる女性。
ただし「死亡時分割制度」により、自身の老齢厚生年金が増える可能性はあります。
まとめ
今回の改正は、男女平等化・一時的支援型への転換・財政健全化を目的としています。
一方で、従来は「終身給付」を受けられた人も有期化されるため、家計に大きな影響を及ぼす改悪的側面もあります。国の財政状況を踏まえると、今後も社会保障制度の縮小は避けられないでしょう。
とはいえ、改正は20年以上の時間をかけて段階的に実施される予定です。したがって、必要以上に焦る必要はありません。
これからの生活設計では、生活費や資産状況を踏まえたうえで「公的保険と貯蓄だけで足りるのか」を確認し、必要に応じて民間保険や就労による補完も検討することが重要です。自分自身の家計をシミュレーションし、将来を見据えた戦略を立てていきましょう。
