遺族年金改正の背景と法改正の全体像【前編】

今回の遺族年金改正は、「大改悪」と評されるほど影響の大きい見直しです。
厚生労働省は、現行の遺族年金制度が男性にとって受給しづらいなどの男女間格差を是正するとともに、共働き世帯の増加など現代のライフスタイルに対応するため、改正法案を提出しました。
現時点では37歳未満の女性、52歳未満の男性が今回の改正の影響を受ける世代にあたりますので、改正の背景と変更点を詳しく理解していきましょう。
遺族年金とは
遺族年金とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族の生活を保障するために支給される年金です。
遺族年金には「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」があり、亡くなった方の年金の加入状況などによりいずれか、または両方の年金が支給されます。
遺族基礎年金
国民年金の被保険者等であった方が亡くなった場合に、その方で生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取れます。(死亡当時に胎児であった子も、出生後に受給対象になります。)性別による差はなく、父母いずれでも受給できます。
受給要件
- 国民年金の被保険者である間に死亡した。
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡した。
- 老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡した。
- 老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡した。
遺族厚生年金
厚生年金保険の被保険者であった方が亡くなった場合、遺族が受け取る年金です。
子どもがいなくても受給できる点が特徴で、現行では給付条件に男女で異なる年齢要件が設定されているため、需給の際に男女差が生じていました。
受給要件
- 現役会社員が死亡した。(一定の納付要件あり)
- 病気・けがで会社を退職後5年以内に死亡した。
- 障害等級1級・2級の障害厚生年金を受給していた。
- 保険料を納付・免除した期間などが合計25年以上ある。
※亡くなった方が受け取るはずだった老齢年金は「ねんきん定期便」で確認することができます。
本改正の中心的な論点は、この遺族厚生年金にあります。
遺族年金の問題と改正の目的

※厚生労働省より引用
社会の変化と制度のギャップ
遺族基礎年金は「子が18歳到達年度末で終了」するため、子どもの独立後の生活保障が手薄になる点があります。
かつては専業主婦世帯が多く、中高齢の寡婦は就労の機会が限られていたため、中高齢寡婦加算が設けられましたが、共働きの増加により制度と現実のギャップが問題視されています。
そのため、中高齢寡婦加算の減少につながっています。
男女格差
現行制度では、例えば妻が30歳未満で子を養育していない場合は遺族厚生年金が有期(5年)である一方、子のない夫は一定の年齢要件(例:55歳未満)で受給できないなど、男女で待遇に差がありました。
こうした条件差は、現代の感覚から不公平だという指摘があります。
制度改正前は30歳以降の女性が一生涯の支給でしたが、移行期間を経てゆくゆくは男女差がなくなる予定です。
生計維持要件への疑問
現行制度では遺族側の年収が850万円を超えると、支給対象外となる生計維持要件があります。
ですが、納めてきた保険料に対して収入基準で給付が制限されることへの違和感が改正の背景にあり、改正後は年収制限が外される予定です。
改正の目的
改正案では、遺族年金の性格を「終身的保障」から「一定期間の支援」に変える方向性が示されています。
国としては年金財政の課題があるのも事実であり、「再就職や就労による生活維持を促している」という政策的なメッセージと、少子高齢化が進む中、「遺族年金だけで暮らす時代ではない。生活の自立を促す」という社会的意図もあります。
改正の配慮措置として、有期給付を現行よりも増額したり、死亡時分割制度で亡くなった人の厚生年金の加入期間を分割して、遺族である配偶者の老齢厚生年金の年金額を計算する際の加入期間に上乗せするなどが検討されています。
改正のスケジュールと対象
2025年5月16日に法案が提出され、衆議院で修正され6月13日に成立しました。
公表されている案では、男性は2028年4月から実施される見込みで、女性については同年から有期給付対象年齢の拡大などの経過措置を取り、20年以上かけて段階的に実施していく予定とされています。
まとめ
遺族厚生年金の見直しは、大幅な給付構造の変更を伴うため「大改悪」と受け止められています。
一方で、男女平等や現代の家族形態に合わせるという側面もあり、一部の制度は改良とも捉えられます。
今後も女性の社会進出や少子高齢化、働き手不足、子なし家庭の増加などの社会変化によって、現行の制度というものは変更されていくでしょう。
後編では、改正によって具体的にどのような給付額や受給条件の変更が生じるのか詳しく解説します。ぜひご覧ください。