投資信託を変える“裏側の革命”相互接続とは何か?【後編】

前編でもお伝えした通り日本の投資信託システムは今、大きな変革の時を迎えています。
これは単なるシステム刷新にとどまらず、投資家の利便性や透明性を高め、日本の「資産運用立国」実現にも関わるものです。
後編では相互接続がもたらす具体的な変化と、その背景にある業界の動きについて解説します。
相互接続がもたらす実際の変化とは?
業務効率化とペーパーレス化
これまで投資信託の注文情報や連絡事項は、FAXや紙の書類を使ってやり取りされていました。
相互接続によりすべてがシステム上で完結すれば印刷・郵送の手間が減り、処理も迅速になります。
また、証券会社や運用会社ごとに異なっていた作業の流れが業界全体で共通化され、業務の無駄や人的ミスも減っていきます。
さらにSTP(=人の手を介さずにシステム同士で情報が自動処理される仕組み)に対応することで、手続きのリアルタイム化が可能になるでしょう。
安全性と災害対応力の強化
相互接続ではAPI接続(=異なるシステム同士をつなげる技術)が重要な役割を果たします。
APIを使うことで、情報のやり取りにおけるアクセス管理や認証の精度が高まり、セキュリティ対策の強化につながる仕組みです。
また、ゼロトラストセキュリティ(=常に確認を行うセキュリティ対策)を導入すれば、不正アクセスや情報漏洩のリスクを低減できます。
さらに、システム障害や災害発生時でも接続を維持できるよう、レジリエンス(事業継続力)を高めた構成と、自動バックアップ・復旧体制の整備にも期待ができます。
新規参入・競争の促進
これまでシステムの接続には専門的な知識と高いコストが必要だったため、新興の運用会社やフィンテック企業(=金融とITを組み合わせた企業)の参入は容易ではありませんでした。
しかし、相互接続により業界全体のルールや接続仕様が標準化されれば、小規模な企業でもネット証券などを通じて自社の商品を提供できる環境が整います。
その結果、商品のラインナップが増え価格やサービスの競争も進むと予想されます。
業界の主要ITベンダーの動き
相互接続を実現するには、以下のような業界の基幹システムを支えるITベンダーの協力が不可欠です。
NRI(野村総合研究所)
主力システム「FundWeb Transfer」を通じて、多くの運用会社に基盤を提供。現在はクラウドとAPIの統合を進め、業界共通の標準化をリードしています。
大和総研(DIR)
主力システム「WEB EXCHANGE」を提供。API対応だけでなく、従来の旧システムとの共存も考慮した設計が強みで、業界インフラの標準化をリードする役割を担っています。
日興システムソリューションズ(日興SSS)
主力システム「BP-NET」は直感的な操作性と自動化機能を備えたシステム。2024年から他社との相互接続プロジェクトを本格化させており、柔軟な対応力が評価されています。
海外における先進事例と展望
海外ではさらに一歩先を行く動きが広がっています。
欧州:Calastoneは 英国を拠点とする企業で、40カ国以上の資産運用会社とつながり、STPによる自動化を実現。ブロックチェーンを使い、安全な情報連携を進めています。
シンガポール・英国:DLT(分散型台帳技術)とは、データを特定の中央ではなく分散して管理する仕組み。これにより透明性が高く、安全で効率的な資産管理が可能になります。
Swift×UBS×Chainlink 国際送金システムのSwift、大手銀行UBS、そしてブロックチェーン技術のChainlinkが、既存システムとデジタル資産の橋渡しを目指す実証実験を進めています。
日本は、まず既存システムの相互接続を進めながら、将来的にはこうしたグローバルな技術との接続も視野に入れています。
私たちの暮らしへの影響
相互接続の実現は、個人投資家にも多くの恩恵をもたらします。
取扱商品の拡大:今まで証券会社ごとに偏っていた投信ラインナップが広がり、比較・選択がしやすくなります。
新興運用会社の商品にアクセス可能:ニッチで個性的なファンドが、どこからでも購入が可能に。
即時反映・情報ズレの解消:注文してすぐ反映されることで、タイミングを逃さず売買できます。
NISA移管が簡単に:証券会社間のデータ連携がスムーズになり、移し替えや証券会社の乗り換えが簡単に。
ヒューマンエラーの削減=安全性アップ:自動処理で、人的ミスや情報漏洩のリスクが大幅に減少します。
操作感の向上:ネット証券と運用会社が連携し、ETFのようなスピーディーな操作感に。
まとめ
この相互接続の動きは単に業界の効率化にとどまらず、私たちの投資環境そのものをより便利で安全、そして自由なものへと変えていく力を持っています。
改革が進めば、私たちの投資環境はもっと身近で使いやすいものになるはずです。
これからの変化に、期待が高まります。
