投資信託を変える“裏側の革命”相互接続とは何か?【前編】

投資信託は表向きには証券会社や銀行で購入できる「身近な金融商品」ですが、その裏側では複雑なITネットワークが支えています。
このネットワークには大きな課題があり、それを解決する動きが急がれており、早い動きで着々と進行しています。
前編では、いま業界全体で進む「投資信託システムの相互接続」の取り組みの課題や目的について、わかりやすく解説します。
「投資信託システムの相互接続」とは
投資信託の運用・販売においては、運用会社と販売会社の間で日々多くの情報がやり取りされています。その通信基盤が「公販ネットワーク」と呼ばれる仕組みです。
投資信託は一見すると「証券会社や銀行で買える商品」ですが、実際にはその背後で以下のような情報連携が日常的に行われています。

この「公販ネットワーク」は、複数のITベンダー(システムやソフトウェア、サービスなどを企業や組織に提供する会社)が独自に提供してきました。
公販ネットワークの接続状況の問題とは
現在の公販ネットワークは、ITベンダーごとに「孤立した島」のように存在しており、情報のやり取りが十分に行われていません。
例えばある会社は「大和総研」のネットワーク、別の会社は「NRI」や「日興SSS」のシステムを利用しており、異なるネットワーク間は分断されているため、自動的な情報連携ができません。
そのため今でもFAXや手入力といったアナログな作業が多く残り、入力ミスや遅延、災害時のリスクがつきまとっています。
なぜ今、公販ネットワークの完全相互接続を進めるのか?
政府やITベンダーが急速に相互接続ができるように動いているのは、以下のような背景があるためです。
- 高齢化によるベテランオペレーターの退職と人材不足:FAXや手入力業務の維持が不可能に
- 若年層の金融業務離れ
- DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴う業務見直し:ITインフラの再構築とデータ連携基盤の整備
これらに加え、2023年に金融庁が「資産運用業高度化プログレスレポート」で2025年度末までの相互接続を明示したことや「資産運用立国実現プラン」では新規参入促進を掲げたことが挙げられます。
そうして各大手IT提供会社(大和総研、NRI、日興SSSなど)が2024年に接続プロジェクトを開始し、2026年3月末の完了を目指しています。
完全相互接続でどう変わる?
ITベンダー同士のネットワークが相互接続されると、以下のような変化が起きるとされています。
- 異なるシステム間での直接注文や情報送信が可能に
- データ変換や手入力が不要
- システム間の垣根が下がり、新興運用会社の参入が容易に
別の会社のシステムを使っていても、売買などのデータをやりとりできるようになるため、設備を整えるコストが減って新興の運用会社が参入しやすくなり、結果として業界全体の効率化が期待されます。
また利用者としても商品ラインアップの多様化など、多くのメリットを享受できる可能性があります。
では既存のITベンダーにはどのような利点があるのでしょうか。
既存ITベンダーの目的は?
この取り組みは新規参入や利用者以外だけでなく、業界全体にメリットをもたらす改革でもあります。
- コスト削減:販売会社と資産運用会社との間での各種連絡業務の効率化ができるため、FAXなどのアナログ作業の削減等、業務負荷の軽減が可能に
- 連絡機能を拡充・自動化:現在メールや電話連絡で行われている私募投資信託の概算連絡、外国投資信託の約定連絡、非居住者投資家割合データ連絡等の自動化
- スピードアップ:資産運用会社が行う投資信託の設定・解約などの業務が効率化され、対外接続機能の強化等を通じて、手作業の削減やレジリエンス向上を目指せる
- ミス削減(ヒューマンエラーの排除):データの参照・更新をシステム画面でのデータ入力、ファイルのアップロード、システム間接続により行うサービスをシステムで自動化
- 新興企業の参入を支援:標準APIで簡単に接続可
このように既存ベンダーにも多くのメリットがあるため、改革が急ピッチで進んでいるのです。
こうした裏側の改革によって、日本の投資信託市場はより透明で効率的になっていくでしょう。
まとめ
投資信託の裏側には、ネットワークの分断と手作業というアナログ作業が根強く残っていました。
しかし金融庁と大手ベンダーの連携により、業界横断的な完全相互接続に向けた取り組みが本格化しています。
これは単なるシステム改善ではなく、投資家・運用会社・販売会社・新興プレイヤーを含めた全体に大きな影響を及ぼす「インフラの刷新」です。
後編では相互接続によって具体的に何が変化するのか、海外の現状、そして私たちの暮らしにどのような影響があるのかを解説していきます。