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2025/10/09 15:00

仮想通貨の分離課税は実現するのか?現行制度と今後の展望【後編】

前編では、仮想通貨が「総合課税」として扱われていることでの問題点や分離課税との違いを整理しました。

 

<関連記事>仮想通貨の分離課税は実現するのか?現行制度と今後の展望【前編】

 

後編ではもし仮想通貨に分離課税が導入されたらどうかわるのか。メリットとデメリットや今後の展望について解説します。

 

分離課税導入のメリット

 

投資家にとってのメリット

仮想通貨の分離課税が実現すれば、投資家にとって最も大きな恩恵は税率の引き下げです。

現在の総合課税では最大55%の税率がかかりますが、分離課税になれば一律20.315%に固定されます。

これは株式やFXと同等の扱いであり、投資家にとっては大幅な負担軽減となります。

また損益通算や損失繰越が可能になれば、投資の安定性が増します。これにより投資家は「利益が出ても損失が相殺できない」という不安から解放され、長期的な資産運用を見据えやすくなるでしょう。

 

市場全体のメリット

分離課税が導入されることで、日本の仮想通貨市場に資金が戻ってくる可能性があります。これまで税制面で不利とされていたために海外に流出していた投資家や資産が、日本国内の取引所に回帰することが期待されます。

その結果、取引所の流動性が向上し新規参入者にとっても取引しやすい環境が整うでしょう。

市場が活性化することは、日本全体のブロックチェーン産業の発展にもつながります。

 

分離課税導入のデメリット

 

税収減の懸念

最大の懸念点は、税収の減少です。現行制度の下では高額な税率により相応の税収が確保されていますが、分離課税になれば税率が一律で低くなるため、短期的には国の税収が減る可能性があります。

ただし、この点については「市場が活性化すれば中長期的には税収増につながる」との反論もあります。

 

公平性の議論

分離課税が導入されると、給与所得者や事業所得者と比べて優遇されすぎではないかという議論も生じるでしょう。特に仮想通貨取引で莫大な利益を得る一部の投資家が、低い税率で済むことについて社会的な合意を得る必要があります。

 

マネーロンダリングや脱税のリスク

仮想通貨は匿名性やグローバル性を持ち合わせているため、不正利用のリスクも指摘されています。

分離課税によって投資が増加すれば、税務当局にとって監視や規制の強化が必要となり、そのコストが増える可能性もあります。

 

人によっては増税の場合も

所得が約330万円以下の場合は申告分離課税(20.315%)よりも総合課税の方が税率が低いため、副業として少額程度の新しい仮想通貨を取引している方は、総合課税よりも多くの税金を払わなくてはならない場合も生じます。

 

政治・政策の動き

 

政府・金融庁の見解

これまで金融庁は仮想通貨を「投機的性格が強い」として慎重な立場を取ってきました。

しかし、近年は仮想通貨をめぐる国際的な議論が活発化しており、日本でも税制改正の必要性が繰り返し指摘されています。

 

政党の提案

自民党ではデジタル社会推進本部と金融調査会を中心に「仮想通貨に分離課税を導入すべきだ」という声が強まっています。税制改正要望として正式に提出された事例もあり、議論は徐々に進展している段階です。

また2024年10月には、国民民主党から仮想通貨取引の申告分離課税化に加え、仮想通貨同士の交換時の非課税化、レバレッジ倍率の2倍から10倍への引き上げ、仮想通貨ETFの導入などが政策として掲げられました。

 

国際的な動向

アメリカやヨーロッパ諸国でも、仮想通貨の課税を巡る制度整備が進んでいます。

国際競争力の観点から、投資家やWEB3.0企業・スタートアップ企業が海外に流出してしまうのを防ぐために法改正が急務になるでしょう。

 

今後の展望

 

2025年は総合課税から申告分離課税への移行が本格的に検討され始めており、ビットコインやイーサリアムなどの一定の条件を満たした仮想通貨について、優先されて税制改正が進められると予想されています。
また、仮想通貨による寄附を行った場合にも非課税となる制度を適用することや、遺続財産への評価を「過去3カ月平均最安値」とするなど、過剰な負担を回避しより健全な運用環境の実現につながると考えられます。

ただ、分離課税になっても株式投資やFX取引など、他の金融商品との損益通算は申告分離課税ではできません。今後は他の金融商品との損益通算がどこまで認められるのかという点も、制度設計で重要なポイントになるでしょう。

 

まとめ

 

投資家にとって「分離課税」への変更は税負担の軽減や市場活性化といった恩恵がある一方で、税収減や不正利用のリスクといった課題も存在します。とはいえ、仮想通貨投資を一般的な資産形成手段として根付かせるためにも、今後数年のうちに制度改革が進む可能性は高いでしょう。

その行方を見守りつつ、投資家自身も柔軟に備えていくことが、これからの時代を生き抜く鍵となりそうです。

 


 

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