仮想通貨の分離課税は実現するのか?現行制度と今後の展望【前編】

近年、仮想通貨市場は日本でも急速に拡大しています。
ビットコインやイーサリアムといった主要銘柄だけでなく、NFTやステーブルコイン、さらにはDeFi(分散型金融)といった革新的な仕組みも次々に登場し、投資家の関心はかつてないほど高まってきました。しかし、その一方で投資家を悩ませているのが 課税制度です。
記事の前編では現在の仮想通貨にかかっている「総合課税」を整理し、なぜ今「分離課税」への移行を求める声が強まっているのか解説します。
仮想通貨の現行の課税制度とは
日本では仮想通貨の売却益や利用による利益は「雑所得」とされ、原則「総合課税」で処理されます。
総合課税とは
総合課税とは、その年に得た給与・事業所得・不動産所得など、さまざまな所得を合算した上で、累進課税方式により税率が決まる仕組みです。
税率は 超累進課税のため5%〜45%(住民税を含めると最大55%)に達し、所得が高くなればなるほど税負担が重くなります。
仮想通貨で利益が出た場合
会社員(給与700万円)→住民税を含む実効税率が23〜25%。
会社員(給与700万円)+仮想通貨の利益200万円→合計900万円が課税対象となり、住民税を含む実効税率が30%前後。
このように適用される税率そのものが上がってしまうため、仮想通貨の利益だけでなく給与部分にまで高い税率がかかることになります。
総合課税による問題点
投資家に重くのしかかる総合課税の課題を整理してみましょう。
高額な税率
先述の通り、最大55%という税率は世界的に見ても非常に高い水準です。これにより利益を出しても半分以上が税金で消えるという状況になり、投資意欲を削ぐ大きな要因となっています。
金融商品との不公平感
株式やFXは、原則として申告分離課税(20.315%)が適用されることで投資家は比較的安定した税率で取引ができます。
一方、仮想通貨だけが総合課税で損益計算が煩雑なため、無申告者が生まれ税の公平性が崩れていることも問題として浮上しています。
海外への資金流出
日本の高税率を嫌い、シンガポールやドバイといった税制優遇国へ移住する投資家も少なくありません。結果、日本国内から投資家も資金も逃げてしまい税収が流出するという問題が生じています。
寄附に使えない矛盾
仮想通貨は安価でスピーディーな決済手段ですが、寄附や贈与には課税が発生します。
本来なら社会貢献に活かせるはずの仮想通貨が、有効活用できない現実です。
損益通算ができない不自由さ
株やFXなら損益を相殺できますが、仮想通貨はできません。そのためある銘柄で200万円の利益と別の銘柄で150万円の損失があっても差し引けず、過剰な課税が発生してしまいます。
さらに損失の繰越控除も認められないので、塩漬け状態が発生しやすくなります。
相続・譲渡での理不尽な税負担
相続発生日に相場が高騰していた場合、相続税が遺産額を超えるケースも報告されています。
場合によっては相続税と相続暗号資産売却時の所得税課税が110%に達するという、信じられない事態さえ起きてしまいます。
またビットコインなど複数の仮想通貨の売買や交換を一つの「譲渡」として扱われ、それぞれの取引ごとに時価評価による所得計算し、年間の利益を算出しなければなりません。
このような理不尽な課税制度をやめるために、分離課税への声が広がっています。
分離課税とは?
2025年は総合課税から申告分離課税への移行が本格的に検討され始めており、早ければ2025年末の税制改正大綱に盛り込まれ、2026年度から少しずつ実現する可能性があります。
分離課税の基本
分離課税とは、給与所得など他の所得と分けて課税される仕組みです。日本では株式や不動産、FXなどの利益に対して確定申告が必要な「申告分離課税」が採用されており、税率は一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です。
これによりどれだけ利益を上げても税率が固定されているため、投資家は安心して取引を続けることができています。
分離課税で利益が出た場合
仮想通貨がもし分離課税に移行すれば、たとえば1000万円の利益を得ても税率は一律20.315%となります。現行制度の累進課税で最大55%課税されるのに比べて、給与とは別の税率のままですので現行より大幅に税負担が軽くなることになります。
さらには損益通算や3年間の繰越控除が認められれば、投資家はより柔軟な売買判断ができるようになり市場の流動性向上にもつながるでしょう。
まとめ
仮想通貨の現行の課税制度は問題点が多く、資産形成の一つに加えるには地盤が弱いことが明確です。後編では実際に分離課税が導入された場合のメリットデメリット、今後の見通しについて掘り下げていきます。ぜひ続編もご覧ください!