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2025/11/13 14:40

建設費・運営費高騰時代の新構図と生存戦略【後編】

前編では、不動産市場の建築コスト高の背景と、今後起きるであろう構造変化について解説しました。
 

<関連記事>建設費・運営費高騰時代の新構図と生存戦略【前編】

 

後編では、都市別の影響とコスト高がもたらすプラス効果についても見ていきましょう。

 

都市別にみる影響の広がり

 

前編で述べたように、建設費・運営費の上昇は一時的なインフレではなく、人手不足・資材高・規制コストの三重構造による「恒常的圧力」です。
この構造変化は、都市ごとに異なる形で現れています。

 

東京

 

需要面:インバウンド回復と都心回帰で需要は底堅く、空室率は改善。価格・賃料上昇が続く見込みです。

供給面:新築供給は遅延・縮小し、採算の合わない再開発は後ろ倒し。結果として中古・既存物件が再評価されています。

投資家動向:国内外の機関投資家は「高品質・低リスク」物件を重視。外資マネーは安定収益を求めて流入継続の可能性が高いです。

社会的影響:超高級化が進み、住宅取得のハードルが上昇。都心の住みにくさが地方移転や賃貸長期化を促す懸念も出てきています。

 

大阪・福岡の動向

 

大阪:東京ほどの価格高騰はないものの、万博・IR関連開発や観光回復により商業・オフィス需要が堅調ですが、建設費上昇により開発利回りは5%を割り込み、採算は限界に近づいています。

福岡:人口流入と地価上昇が続き、九州のハブ都市として注目度が高まっています。比較的手頃な価格で利回りが取りやすく、地方の中でも「成長都市」としての吸引力が強い一方、供給制約が課題です。

地方は初期投資負担の重さが参入障壁となり、大手デベロッパー・REIT・外資だけが参入可能な構造になっています。資金力や政策対応力によって、地域ごとの差が一層鮮明になりつつあるでしょう。

 

住宅取得が遠のく現実

 

建築コスト高は、すでに一般生活にも深刻な影響を及ぼしています。

住宅価格の高止まりにより、若年層や一般家庭の住宅取得が困難に。

管理費・修繕費の上昇が家賃に転嫁され、支払い負担が拡大。

地方都市では初期投資できず、再生格差が拡大。

外資の不動産取得が増え、日本の資産が海外資本に偏る傾向。
このような背景から、住宅取得のハードル上昇は止まらず「家を持てない世代」が常態化しつつあります。

 

政策動向と市場への波及

 

政党ごとに方向性は異なりますが、いずれも住宅支援・土地利用・投資規制を軸に再編が進む見通しです。

政権交代や政策転換が起これば、市場の前提そのものが変わりますので「どの政策下で、どのエリアが恩恵を受けるか」を常に見極める必要があります。

 

コスト高時代をプラスに変える戦略

 

建築コストを下げる技術革新

 

プレハブ・モジュール工法の普及により、省力化・工期短縮・品質向上が進行中です。
特に中規模開発では建設単価を20〜30%削減できるケースもあり、国土交通省も住宅分野でのモジュール建築普及を後押ししています。

 

用途転換・再生投資の波

 

空室オフィスのリノベーションや用途転換(オフィス→住宅・ホテル・コワーキング化)が加速。
規制緩和・補助制度により、「建てない投資」や「用途再生型投資」が主流になりつつあります。

 

公共還元・地元優先ルール

 

土地値捕捉(LVC)を活用し、地価上昇分を地域に還元する仕組みで、地元企業・住民が優先的に恩恵を受ける制度設計により、「外資一極化」を緩和できる可能性があります。
欧米・アジア主要都市でもすでに実績があり、日本でも導入の動きが見られます。

 

長期保有・サステナブル投資

 

「建てて壊す」から「維持して育てる」時代へと転換するなか、環境対応建築や長期保有型投資の重要性が一層高まっています。今後は、長寿命で高品質な不動産ほど資産価値を長期的に維持・伸ばせる運営が鍵となるでしょう。

 

コスト高がもたらすプラス効果

 

建築コストの上昇は痛みを伴うものの、供給抑制によって空室率が低下し、賃料上昇が進むことで実質的な投資リターンは改善傾向にあります。

特に物流施設・賃貸住宅・都心一等地ではその効果が顕著で、所有者や賃貸オーナーにとっては追い風となっています。

また、半導体工場やデータセンター建設の需要が急増。2023〜2028年の5年間で総床面積が約1.4倍に拡大する見込みもあり、建設需要の一部は新たな形で持続しています。

 

まとめ

 

これからの日本は、「建てる」時代から「再構築する」時代へと移り変わっていきます。

新築が減少するなかでも、既存資産の価値を磨き、持続的に成長できる都市だけが真に選ばれていくでしょう。

そして建設コストが上昇しても、品質と効率を高める取り組みが進むことで、不動産は新たな進化の段階に入ります。

今後、制度の安定性と信頼を強みとする日本の不動産市場は、投資先としての存在感を維持していくはずです。

不動産業界全体が再編を経て、「持続可能な価値」を基準に都市が評価される時代が、いま始まろうとしています。

 


 

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