ホテル資産の進化が導く、投資家注目のホスピタリティ市場の現在地【後編】

前編で、日本のホテル市場が国内外から注目される背景にあるのは、インバウンド需要の回復や低金利・供給不足といった要素であると解説しました。
後編では、ホテル資産の今後の成長を後押しする要因について掘り下げていきます。
日本のホスピタリティが高水準を維持する理由
日本のホテル業界は、国産ホテル企業が市場の約90%を占めていることから、安定した品質管理とサービスレベルの高さが特徴です。
最大手の東横インは全国に250以上の施設を展開し、約5万室を提供。ルートイン、アパホテル、スーパーホテルなども国内で高いプレゼンスを維持しています。
また、日本のホテル業界は「おもてなし」の文化をベースとした接客品質の高さも国際的に評価されています。外国人観光客からの口コミやSNSによる拡散も、ブランド力を高める要因となっており、ソフトパワーによる資産価値向上の側面も無視できません。
このようなことから、投資家たちからは日本のホテルは運営次第で価値が大きく変わる、アクティブ・アセットであるという認識が広がっています。
ラグジュアリーホテル市場の拡大と国際ブランドの進出
近年は、ハイアットやYOTELなどの海外ブランドも参入し始め、日本市場での存在感を高めています。特にハイアットは富士スピードウェイホテルを開業し、YOTELはロボットやスマートベッドといったテクノロジーを活用したホテルを銀座に開業。サービスの多様性と革新が進んでいます。
これまで日本は欧米諸国に比べてラグジュアリーホテルの数が少なく、今後の成長余地が大きいとされてきました。近年はザ・トーキョー エディションやラッフルズ、ドーチェスター・コレクションなどの高級ブランドが次々と進出。東京や大阪を中心に新規開業が予定されています。
また、富裕層や長期滞在を望む訪日客への対応力が求められる中で、バトラーサービスやウェルネス施設の拡充など、施設のソフト面でも高付加価値化が進行しています。
海外ファンドの積極投資と大型取引の増加
2024年には、国内ホテル市場で複数の大型取引が成立し、海外ファンドを中心に活発な投資活動が見られました。
代表的な取引事例
GIC(シンガポール政府系ファンド):西武ホールディングスからホテル関連資産を約1,500億円で取得。
KKR & Gaw Capital(米・香港系投資ファンド):ハイアットリージェンシー東京を約571億円で取得。
BentallGreenOak(カナダ系PEファンド):大阪・リーガロイヤルホテルを約550億円で取得。
Baring Private Equity Asia(香港拠点):大阪のホテル「ザ・ビー大阪御堂筋」などを100億円超で取得。
これらの取引は単なる不動産の売買にとどまらず、再生やリノベーション、ブランド刷新といった戦略的投資である点が注目されます。
加えてエネルギー効率の高い建築、プラスチック削減、地産地消型のレストラン運営など、ESG対応を重視した投資傾向も高まっており、これらを軸に据えた開発・改修プロジェクトへの注目が集まっています。
政府の観光政策と地方活性化の波
観光庁は2030年に訪日外国人6,000万人、旅行消費額15兆円という目標を掲げ、観光産業を国家戦略の柱と位置づけています。そのため関西万博、IR構想、観光DX、地方誘致策などが進行しており、これがホテル投資の後押しになっているのです。
また再訪日観光客の増加に伴い、従来の都市部中心の動きから、地方エリアへの観光回帰が進んでいます。
長野県・白馬村:ウィンタースポーツと四季の自然を活かしたリゾート型開発が進行。地価は前年比30.2%上昇。(出典元 国土交通省2024年基準地価)
岐阜県・高山市:古い町並みと国際的な知名度を背景に、同27.1%上昇。
兵庫県・城崎温泉:温泉と街歩き文化が再評価され、同16.2%上昇。
これらの地域では、アウトドアや文化体験を活かした高付加価値型ホテルの新規開業や、再生事業が進んでおり、訪日客の地方志向に応える形で成長の起点となっています。
観光による経済効果は宿泊施設にとどまらず、周辺の飲食店やインフラ整備にも波及。今後は「一地域一リゾート」型の開発が、自治体と民間資本の連携で加速すると見込まれ、地域の宿泊単価や不動産価値の上昇にもつながると期待されています。
まとめ
日本のホテルは、多くの海外投資家から「運営によって価値が高まるアクティブ・アセット」として注目を集めています。
インバウンドの回復、国内旅行の再活性化、国際ブランドの進出、さらに政府の観光政策やESG対応といった多方面からの追い風により、かつてないほど投資環境が整いつつあります。
こうした背景を踏まえれば、今後もホテル市場にはさらなる価値向上の可能性が広がっていくと言えるでしょう。