ホテル資産の進化が導く、投資家注目のホスピタリティ市場の現在地【前編】

2024年、日本のホスピタリティ市場は過去にない成長を見せました。訪日外国人観光客は3,687万人に達し、旅行消費額は約8.1兆円と、いずれも過去最高を記録しています。
なぜここまでホスピタリティ市場が活況を呈しているのでしょうか。この記事では、現在の市場環境と、不動産投資家がホスピタリティ市場の中でも、なぜホテル分野に注目しているのかを前編として解説します。
観光需要が大幅回復、日本のホテル市場に追い風
ホスピタリティ市場とは「人をもてなす」ことを中心に据えたサービス業全体の市場を表します。
具体的にはホテル・旅館業、飲食業、観光業、レジャー施設、展示会運営などです。
特にホテル業界においては、1泊あたりの宿泊単価(ADR)は上昇しているものの、新型コロナウイルス対策の撤廃と円安の影響によって、外国人観光客からは依然として「コスパが良い旅行先」と感じられています。
その結果、稼働率と収益性が共に好調となり国内外の不動産投資家にとって、非常に魅力的な市場と捉えられています。
また、日本の観光インフラは鉄道網や治安の良さ、多言語対応なども含めて世界水準で整っており、これも投資対象としての安心材料となっています。
ホテルへの投資額が過去最高、外国資本が積極参入
2023年のホテル投資額はコロナ前(2019年)を上回り、さらに2024年には1.1兆円に達しました。これは不動産市場全体の20%を占める勢いです。
この内の47%が外国資本によるものから、日本のホテル投資が世界中の投資家にとって魅力的な資産クラスであるとうかがえます。
さらにホテル開発には一般的に3〜5年という時間がかかるため、供給が急増するリスクが少なく、物件価格が安定しやすい点も魅力とされています。
インバウンド需要の復活、中国やアジア諸国がけん引
2024年の訪日外国人数は3,687万人で、なかでも中国が698万人と最多。旅行消費額でも中国が4,373億円と1位を占めています。次いで台湾・アメリカ・韓国・香港と続き、特にアジア諸国からのインバウンド需要が目立つ状況です。
このようなデータからも、アジア圏の経済回復と日本への関心の高さが確認でき、今後の成長が期待される市場であることが分かります。
またこれらの観光客の増加は、ホテル収益の安定化につながるため、キャッシュフローを重視する不動産投資家には非常に魅力的に映っています。
国内観光の活性化
円安の影響で海外旅行を控える日本人が増え、国内旅行へのシフトが進んでいます。
2024年の日本人宿泊者数は約4.8億人、旅行消費額は25.1兆円に達しており、インバウンドだけでなく国内市場の安定的な需要もホテル経営の大きな支えとなっています。
加えて、ワーケーションや長期滞在型のニーズも拡大しており、多様な宿泊スタイルに対応できる物件は今後さらに価値を高める可能性があるでしょう。
キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンが高水準
世界的に金利が上昇している中、日本では歴史的な低金利政策が続いており、借入金利が非常に低い水準です。これにより、キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(自己資本に対する年間利益率)が高まりやすくなっています。
世界最大の事業用不動産サービス会社「CBRE」の2024年調査によると、多くのアジア圏では不動産利回りが金利を下回る赤字の状況ですが、日本では約3%のイールドギャップ(利回りと借入金利の差)が維持されており、投資先としての優位性があるとされています。
さらに円安のためドルで投資する海外投資家にとっては、為替差益も得やすい構造といえるでしょう。
物件の価値は上昇傾向
2024年時点での日本の新規ホテル供給率はわずか1.8%で、アジア太平洋平均(7%)と比べても非常に低く、供給不足が続いています。
理由として建築コストの高騰や人手不足、長引く資材供給の問題などが影響し、ホテル開発が難しい状況が続いています。
この結果、既存ホテルの稼働率や収益性(RevPAR)は改善しておりますが、2025年以降も新規開業予定は減少する見込みです。そのため、既存物件の希少性と資産価値がさらに高まる可能性があります。
まとめ
こうした背景から日本のホスピタリティ市場の中でも、特にホテル投資はインバウンドと国内旅行需要の両方に支えられ、今後も安定した成長が見込まれる投資分野といえるでしょう。
円安や低金利といった市場環境も追い風となり、限られた供給の中で既存物件の価値が高まりやすい状況が続いています。
次回の後編では、海外投資家が注目する地域や政府の支援施策、地方創生への波及効果などをさらに深掘りして解説します!