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2026/03/10 09:30

アフォーダブル住宅が変える都市の未来【前編】

かつての日本では、真面目に働きキャリアを積めば、それに見合った住まいを手にすることができました。
しかし現在、新築マンションの平均価格は1億円の壁を優に超えています。
家賃相場もそれにつられるように上昇し、手取り収入の大きな割合が住居費に消えていく。
この「住まいの高騰」は、もはや一部の富裕層の問題ではなく、都市を支える若者や中間層の生活を根底から揺さぶる社会問題へと発展しています。
こうした閉塞感の中で、いま東京都が打ち出した新たな一手である「アフォーダブル住宅」政策が注目を集めています。

日本に欠けていた、中間層向けの住まい

アフォーダブル住宅とは、市場価格よりも低い家賃や価格で利用できる住宅を指します。
しかし、それは単なる「安い住宅」ではありません。

これまで日本の住宅支援は、生活困窮者向けの公営住宅か、市場任せの民間住宅の二択でした。

ところが現在、最も厳しい状況に置かれているのは、生活に困窮するほどではないものの、高騰する家賃に圧迫され貯蓄も難しく、将来への不安を抱えている中間層です。

こうした中間層向けの選択肢として、価格だけでなく、広さ・耐震性・断熱性・職場へのアクセスといった生活の質が確保されていることを前提としたアフォーダブル住宅が必要とされているのです。

東京都が掲げる「2026年モデル」の具体像

東京都は2026年度から、子育て世帯などが安心して住めるアフォーダブル住宅の供給を本格化させます。

家賃設定

周辺相場のおおむね2割引きを目指します。
この差額が家計の余裕を生み、教育費や将来への備えにつながることが期待されています。
 

広さと質

子育て世帯を主眼に、原則45㎡以上を確保。
断熱性能などの環境基準も満たし、光熱費の抑制にも寄与します。


供給の仕組み(官民連携ファンド)

都と民間がそれぞれ100億円を出資する200億円規模のファンドを活用します。
既存マンションを取得しリノベーションすることで、従来の公営住宅よりも迅速な供給が可能です。

なぜ私たちは「家」を買えなくなったのか?

給料は上がらないのに家の価格だけが上がった背景には、住宅の金融商品化があります。
低金利が続く中、投資マネーは世界の都市不動産に流入しました。
東京の住宅も住むための空間というより、利回りを生む資産として扱われるようになったのです。
その結果、住宅価格は「住む人の所得」ではなく「投資家の期待」に左右される構造へと変化しました。
住宅が生活の基盤から投資対象へと性格を変えたことが、価格高騰の大きな要因です。

住宅価格高騰を招く供給側の制約

価格上昇には供給側の事情もあります。

資材高騰:国際情勢や円安の影響で建築資材が値上がり。
人件費上昇:建設業の人手不足と労働規制の強化。
用地不足:都心では高価格帯物件に偏り、中間層向け新築が減少。

これらが重なり、普通の価格の新築住宅が市場から姿を消しつつあります。

若者・中間層が住めなくなる都市構造

この問題は日本だけでなく、世界の大都市でも家賃高騰により、都市を支える担い手が中心部に住み続けることが難しくなっています。
その影響は、都市から人が押し出される「ジェントリフィケーション」と、無理な住宅取得に依存する「ペアローン」という、二つの形で表れています。
 

ジェントリフィケーション

サービス業や公共職の担い手が郊外へ追いやられ、都市の多様性が失われる現象です。
街が「住む場所」から「資産の置き場」となり富裕層と投資用空室ばかりの街へと変質しかねません。
 

ペアローン

中間層は夫婦で限界まで借り入れるケースが増えています。
一見安定してみえますが、 一方が働けなくなれば家計は一気に不安定化し、住宅取得が安心ではなくリスクになってしまいます。
 

住宅を生活インフラとして考える

アフォーダブル住宅が目指すのは、住宅費を抑えつつ、生活の質と人生の選択肢を守る住まいです。
十分な広さ、断熱性能、職場へのアクセス。
それらを特別な条件ではなく、標準的な生活の前提として再定義することが、この政策の核心です。
アフォーダブル住宅が問い直しているのは、住宅の善し悪しではなく、 「どれだけの人が、現実的な選択肢を持てるのか」という問題です。

生活の前提条件として確保できる層をどう支えるか。この問いに対し、東京都は「制度」で答えようとしています。
 

まとめ

住宅を市場任せの商品とするのか、都市を支える社会インフラと捉え直すのか。私たちはいま、その分岐点に立っています。
東京都のアフォーダブル住宅政策は、後者への挑戦です。
また、失われつつある「普通の暮らし」を取り戻すための試みでもあります。
では、この理想はどのように制度として形になり、持続可能な仕組みとして機能するのでしょうか。
後編では、東京都の具体的な制度設計と海外の先行事例を比較しながら、アフォーダブル住宅が都市の未来をどう変えるのかを解説します。

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