2050年カーボンニュートラルへの挑戦!世界と日本の取り組み【前編】

近年、気候変動の影響が深刻化し地球の平均気温が上昇、異常気象や自然災害のリスクが高まっています。こうした背景から、世界中の国々が「脱炭素社会」の実現を目指し、経済や社会の構造を見直し始めています。
2025年現在、私たちはどこまで脱炭素社会に近づいているのでしょうか。前編では脱炭素社会の重要性と、世界の動きについて解説します。
脱炭素社会とは
脱脱炭素社会とは、CO₂などの温室効果ガスの排出量を「全体としてゼロ」にすることを目指す社会です。
完全に排出をゼロにするのは現実的に難しいため、削減しきれない分は森林による吸収やCO₂を回収・貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)などの技術によって中和します。
この「排出と吸収を差し引きゼロにする」考え方を「カーボンニュートラル(炭素中立)」と呼び、日本政府も2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。
なぜカーボンニュートラルが求められるのか
近年の研究によれば20世紀後半からの地球温暖化は、自然な気候変動だけでは説明できず、人為的な温室効果ガスの増加が主な原因とされています。
過去1万年間と比較しても、近年の気温上昇は約10倍の速度で進行しており、このままでは環境への深刻な影響が懸念されます。
温暖化による環境への影響例
- 食料や水の不足
- 海面上昇による沿岸都市への被害
- 生物種の絶滅リスクの増加
- 異常気象の頻発(干ばつ、洪水、熱波など)
- 気候変動が引き金となる地域紛争の拡大
これらは単なる環境問題ではなく、私たちの暮らしや経済、安全保障にも深く関わっています。
温暖化による被害の事例
温暖化の影響は、すでに各地で大きな被害を出しています。
- 2022年ヨーロッパ各国で山火事が頻発。合計120万ヘクタールが焼失。
- 2024年アメリカで大型ハリケーン「ヘリーン」が発生。経済損失額は日本円で約23兆円。
- 2024年ブラジル南部洪水。15万人が家を失い避難。
このような被害を防ぐためには、温室効果ガスの排出を早期に減らし、排出と吸収のバランスを取る必要があります。
国際的な枠組みと合意
2015年のCOP21「パリ協定」では、地球の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑え、1.5℃以内を目指す努力が国際的に合意されました。
この協定により、195の国と地域が温室効果ガス削減の目標(NDC)を提出し、その進捗を定期的に報告する義務があります。
また、2019年にはIPCCが1.5℃目標の重要性を強調する報告書を発表。2021年のCOP26では、140以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。現在では145カ国以上が類似の目標を掲げています(例:ドイツは2045年、中国は2060年、インドは2070年)。
世界の主要国の政策
2023年の米国開示システム「エドガー」のデータによると、世界の温室効果ガス排出量の約48%は中国、アメリカ、インドの3カ国によるものであり、この3カ国の動向が脱炭素の成否を左右します。
脱炭素社会に向けたそれぞれの政策をみていきましょう。
欧州(EU)
- グリーンディール政策:2030年までに温室効果ガス排出を55%(1990年比)削減。再生可能エネルギーの導入目標の引き上げや、炭素税の強化などを推進する。
- CBAM(炭素国境調整措置):域外輸入品に炭素コストを課す制度で、2026年から本格導入予定。
- 脱ガソリン車政策:2035年以降の内燃機関車の販売禁止。EV・水素インフラの整備を計画。
アメリカ
- IRA法(インフレ抑制法):2022年に成立。約3,690億ドル規模の再エネ・EV支援。
- インフラ整備:電気バス導入支援や、2030年までにEV充電器50万基設置予定。
- 政治動向の変化:2025年、トランプ大統領の再登場によりアメリカはパリ協定脱退を宣言。カーボンニュートラルから距離を置く方針を表明しました。
中国
- 2025年に国家炭素市場の対象を鉄鋼・セメントなどに拡大。
- 2035年には新車販売の半数をEVにする目標。
インド
- グリーン水素生産を年間500万トンに拡大する計画である「グリーン水素・アンモニア政策」を2022年に導入。
- 2025年にフィンランドのFortum社のインド再生可能エネルギー事業を買収し、5億ドルの投資計画を発表。
まとめ
脱炭素社会の実現は、2025年の今では理想論にとどまらず、各国が実際に政策と行動に移している現実の課題です。
温暖化のリスクが現実のものとなりつつある今、国際的な枠組みのもとでの協力と、各国の自主的な取り組みが鍵を握っています。
後編では、こうしたグローバルな動きが企業活動や私たちの日常生活にどのように影響しているのかを、より実践的な視点から探っていきます。