「デジタル給与」って何?キャッシュレス時代の新しい給料のカタチ【前編】

これまで日本では、労働者保護の観点から給与の支払い方法が法律で厳しく定められていました。
労働基準法では、原則として「通貨(現金)で」「全額を」「直接労働者に」支払うことが基本です。ただし、労使合意があれば「銀行振込」も認められる運用が続いてきました。
そんな中、2023年4月の法改正によりついに「デジタル給与」が正式に認められることになりました。
この記事の前編では、デジタル給与が導入される背景や仕組み、メリット・デメリットについてわかりやすく解説していきます。
デジタル給与のしくみとは?
銀行振込との一番の違いは、振込先が「銀行口座」ではなく、たとえばPayPayや楽天ペイといったスマホアプリのウォレットになる点です。
ただし、利用できるのは厚生労働省が認可した資金移動業者に限られ、セキュリティや現金引き出しのしやすさなど、一定の条件を満たす必要があります。
デジタル給与の基本ポイント
- 従業員の同意が必須。(強制は不可)
- 労使協定の締結が必要。
- 月1回以上、無料で現金を引き出せる。
- 銀行振込との併用も可能。(一部だけデジタル給与にするなど)
導入が進む背景
なぜ今、デジタル給与が注目されているのでしょうか?
その背景には社会の変化と、時代のニーズがあります。
キャッシュレス社会の拡大
経済産業省によると、日本のキャッシュレス決済比率は年々増加し、2024年には42.8%になりました。
政府は将来的には80%を目標に掲げており、社会全体が「現金に頼らない」方向へとシフトしています。
外国人労働者への対応
日本で働く外国人はキャッシュレス文化に慣れているケースが多く、デジタル給与は彼らにとって使いやすい仕組みといえます。
また、日本での銀行口座開設がハードルになるケースもあり、それをカバーする目的もあります。
若者・短期労働者との相性
スマホ1つで給与を受け取れるため、日雇いや短期アルバイトとの親和性も高く、企業側にとっても人材確保の新たな手段となりえるでしょう。
メリットとデメリット
便利なようで、気をつけたい点もあります。企業・従業員それぞれの視点から、デジタル給与の利点と課題を整理します。
【企業側のメリット】
- 振込手数料の削減による経費カット。
- 給与支払いの利便性向上。
- 福利厚生の一環として他社との差別化。
- 外国人や短期雇用者への対応がしやすくなる。
- 即時払いニーズに応えやすく、従業員の満足度アップに貢献。
【従業員のメリット】
- 給与の即時チャージで利便性がアップ。
- 銀行口座とは別で給与管理ができる。
- アプリによってはポイント還元などのお得な特典も。
【デメリット】
- 対応アプリがまだ少ない。(2025年時点で4社)
- 上限は100万円。それを超えると銀行口座へ自動出金され、手数料発生の可能性がある。
- スマホの紛失やアプリ障害など、セキュリティリスクの懸念。
- 企業指定と私用しているアプリが違うと不便を感じることも。
- 労使協定の締結やシステム改修など、企業側の準備が必要。
- 給与支払い業務が複雑化する可能性あり。
前例が少ないため、導入コストや手間に対する不安感もあるといえるでしょう。
各国のキャッシュレス事情
日本は個人消費のキャッシュレス比率が約40%となりましたが、世界ではどのくらい普及しているのでしょうか?
韓国:93 %〜99 %
キャッシュレス化は世界トップ級で、ほぼ日常生活のすべてがカードやQRコード決済で完結。
スウェーデン:約98 %
Swishなどのモバイル決済が普及し、2025年には実質キャッシュレス社会に近い状況でしたが、国防整備の観点から「現金も保持すべき」との議論もあります。
中国:83 %〜84 %
QRコード決済(WeChat Pay/Alipay)が圧倒的に普及し、店舗での現金利用は稀です。
イギリス:約65 %
オンライン&モバイル決済が浸透し、現金利用は減少傾向。
アメリカ:約60 %
クレジット/デビットカードが主流で、オンライン・タッチ決済(Apple Pay等)も急速に伸びていますが、現金もまだ広く使われています。
このように比較すると日本がやや遅れをとっている印象があります。
まとめ
デジタル給与は単なる新しい支払い手段ではなく、仕事と暮らしをより便利でスマートにするための仕組みです。
企業にも従業員にも、それぞれにメリットと注意点があり、バランスを取りながら導入していくことが求められます。
後編では、実際に使える資金移動業者の一覧や、導入にあたってのステップ、さらに詳しい注意点についてご紹介します!