iDeCo・退職金の受け取り方で大きく変わる税負担【前編】

老後資金の確保は、多くの日本人にとって重要なテーマです。
なかでも「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「退職金」は、老後生活を支える2大柱といえます。
しかし、この2つをいつ・どのように受け取るかによって、税金の負担が大きく変わることをご存じでしょうか?
本記事(前編)では、まずiDeCoと退職金の基本的な受け取り方と、それぞれに適用される税金の仕組み・控除制度をわかりやすく整理します。
後編では、実際の受け取り時期の調整によってどの程度節税できるのかを具体的に解説します。
iDeCoの受け取り方とは?
iDeCoの基本構造
iDeCoは個人が自分の意思で拠出金を積み立て、60歳以降に老後資金として受け取る仕組みで、積み立て時・運用時・受け取り時の3つのステージで、それぞれ税制優遇を受けられる点が大きな特徴です。
- 積み立て時:掛金が全額所得控除。
- 運用時:運用益が非課税。
- 受け取り時:退職所得控除または公的年金等控除が適用。
特に「受け取り時」の方法によって、最終的な税負担が大きく変わってきます。
受け取り方法の3つのパターン
iDeCoの受け取り方法は一度決めると変更できないため、慎重な判断が必要です。
- 一時金(一括):最も多く選ばれている方法。他の退職金と時期をずらせると有利。
- 年金(分割):長期的に安定収入を得られるが、他の年金が多いと課税面で不利になることも。
- 併用:一時金と年金の組み合わせ。税負担を調整したい人向け。
一時金で受け取る場合の特徴
iDeCoを一時金として受け取ると、「退職所得」として課税されます。
ただし、退職所得には退職所得控除という大きな非課税枠があるため、多くのケースで税金がほとんどかかりません。
また退職所得控除は、勤続年数に応じて増加します。
特に40年を超える勤務では2,000万円を超える控除が適用されるため、実際に課税されるケースは限られます。
退職所得控除の計算式
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勤続年数20年以下:40万円×勤続年数 勤続年数20年超:800万円∔70万円×(勤続年数-20年) |
たとえば、40年間勤務した人の退職所得控除は「800万円 + 70万円 × 20年 = 2,200万円」となります。
つまり、退職金とiDeCoの合計が2,200万円以内であれば、課税がゼロになる可能性が高いのです。
ただし注意点として、同じ年に複数の退職所得(退職金やiDeCo一時金など)を受け取ると控除が通算されるため、税負担が増えることがあります。
この「受け取り時期の調整」が節税のポイントとなります。
一時金で受け取るメリット・デメリット
メリット
- 退職所得控除+2分の1課税で税負担が極めて軽い。
- 一括で資金を確保できる。
デメリット
- 他の退職所得と同年に受け取ると控除が重複できず、課税対象が増える。
- 将来的な運用機会を失う。
※退職所得は、控除後の金額の2分の1が課税対象となる「2分の1課税」という優遇があります。
年金で受け取る場合の特徴
iDeCoを年金として分割で受け取ると、税区分は「雑所得」となり、公的年金等控除が適用されます。
これは、老齢年金や企業年金などと同様に、一定額までが非課税になる制度です。
公的年金等控除(65歳以上の場合)
年金収入額
~330万円:控除額 110万円
330万超~410万:控除額 年金収入×25% + 27.5万円
410万超~770万円:控除額 年金収入×15% + 68.5万円
退職所得控除と比べると控除額は小さいものの、退職金をすでに受け取って控除を使い切った後であれば、iDeCoを年金形式にすることで税負担を抑えられるケースもあります。
年金で受け取るメリット・デメリット
メリット
- 公的年金等控除が適用される。
- 長期に分けて受け取ることで所得分散できる。
デメリット
- 退職所得控除よりも控除額が小さい。
- 受け取り期間中に税制改正の影響を受ける可能性がある。
併用でバランスを取る選択肢
最近では「一部を一時金、残りを年金」という併用型を選ぶ人も増えています。
これにより控除を最大限に活用しつつ、安定収入も確保できる柔軟な運用が可能です。
まとめ
本記事では、iDeCoと退職金の基本的な受け取り方と、それぞれの課税・控除の仕組みを整理しました。
iDeCo退職金とiDeCoを同年に一括受け取りするには、節税のカギは「受け取り時期の調整」にありそうです。
後編では、実際に受け取り時期をずらすことでどの程度の節税効果があるのか、シミュレーションを交えながら最適な受け取り戦略を具体的に紹介します。