老後資産を守る企業年金戦略!DB・DCの基礎と2026年改正の影響【前編】

日本の公的年金だけでは老後が不安だという声が増えています。
そのため、会社員や公務員などの勤労者にとって、老後資金を補う「企業年金制度」などの私的年金制度への理解が欠かせない時代になりました。
本記事(前編)では、企業年金制度の基本構造と特徴を整理し、特に企業型DCについて解説します。
企業年金制度とは?
退職金制度は大きく「退職一時金」と「企業年金」に分けられます。
このうち「企業年金制度」は、勤め先の企業が主体となって設ける公的年金以外の上乗せ給付制度です。
従業員が安心して老後を迎えられるよう、企業が拠出金を積み立てて老後給付を行う仕組みで、現在は多くの企業が導入しています。
企業年金制度には、2種類あります。
- 確定給付企業年金(DB)
- 確定拠出年金(DC)
この2つの制度は、給付の内容や拠出責任・運用責任の点で大きく異なります。
確定給付企業年金(DB)の構造と特徴
DBとは?
まず確定給付企業年金(DB)は、企業があらかじめ退職後の給付額(年金または一時金)を定め、そのための拠出や運用を企業が負担する制度で、厚生年金基金の後継制度として普及しました。
主な特徴
- 将来の給付額が制度設計時に確定しているため、老後の収入見通しを立てやすい。
- 想定通りに運用が進まない場合、企業が追加拠出して給付を保証する。
- 運用リスクを企業が負うため、従業員の給付は安定している。
メリット
- 企業にとっては長期雇用や従業員の安心感を高められるため、離職防止に寄与できる。
- 企業の掛金は全額が経費として認められ法人税が軽減され、加入者も掛金が所得控除の対象となり、運用益は原則非課税(特別法人税は現在凍結中)。このような税制上のメリットが大きいのが特徴です。
DBの課題
- 企業の負担が大きい:低金利・長寿化により、将来の給付債務が膨らみやすい。
経営リスクが高い:業績が悪化しても給付を確保しなければならない。 - 制度維持コストの増加:運用難・法規制対応・監査コストなど、企業の管理負担が重い。
このため近年ではDBを縮小し、より柔軟で企業負担の軽いDCへ移行する企業が増えています。
確定拠出年金(DC)の構造と特徴
DCとは?
確定拠出年金(DC)は掛金額を確定し、運用成果によって給付額が変動する制度です。
つまり「拠出額 × 運用成果 = 将来の受取額」という構造です。
主な特徴
- 企業が毎月一定の掛金を拠出し、従業員が運用商品を選択して運用する。
- 原則60歳以降に、年金または一時金として受け取る。
- 退職給付債務が発生しないため、企業にとって財務上の安定性が高い。
メリット
- 従業員が上乗せ拠出(マッチング拠出)を行うことで、自助努力により、老後資産を大きく増やす可能性がある。
- 拠出額は所得控除、運用益は非課税、受取時も退職所得控除や公的年金等控除が適用される。
- 掛金は全額損金算入できるため、企業にも税務上のメリットがある。
DCの課題
- 運用成績によって給付額が変動するため、元本割れのリスクがある。
- 運用や責任は個人のため、商品選びや運用方針を自ら考える必要があり、投資知識が求められる。
- 受け取り方(年金 or 一時金)やタイミングによって税負担が異なる。
DBとDCの比較ポイント

このように、DBは安定性重視、DCは自己運用・成長重視という性格の違いがあります。
自分の勤務先がどちら(あるいは両方)を採用しているかを把握し、老後資産設計を考えることが大切です。
2026年以降の改正ポイント
働き方の多様化や資産形成ニーズの高まりを背景に、「企業型DC」では2026年4月から大きな改正が予定されています。
マッチング拠出上限の撤廃
マッチング拠出とは、企業が拠出する掛金に加えて、従業員自身が上乗せ拠出できる制度です。
改正前→従業員の拠出額は企業拠出を超えてはならない。
改正後→企業拠出額にかかわらず、上限の範囲内で自由に拠出可能に。
この改正により、従業員自身がより主体的に老後資金を積み立てられるようになります。
拠出限度額の引き上げ
拠出限度額も引き上げられる見込みです。
改正前:月額5.5万円。(他制度併用時)
改正後:月額6.2万円程度へ拡大。
企業年金制度がない会社員や、企業拠出が少ない人でも、より多くの資産形成ができる環境になります。
ただし、制度の自由度が上がる一方で、運用のリスクや責任は個人に移ります。
どんな商品を選ぶか、いくら拠出するか、どのように受け取るかを理解しておかないと、せっかくの改正のメリットを十分に活かせません。
勤務先の制度内容や、DBとの併用可否、税制上の扱いなどを事前に確認しておきましょう。
まとめ
前編ではDB・DCの基本構造と違い、そして2026年改正によって企業型DCの自由度が高まる点を紹介しました。
後編では、掛金の考え方や運用商品の選び方など、実践的な内容を解説します。
制度を理解し一歩踏み込んで活用することが、あなたの老後資金形成を強力に支える第一歩となるでしょう。