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2025/05/26 18:57

なぜ今、タワーマンションが売れているのか?進化する地方都市の不動産市場【前編】

かつて「億ション」といえば、東京や大阪などの大都市圏に限られた話題でした。しかし近年、地方都市でも1億円を超える分譲マンション、いわゆる「ローカル億ション」が注目を集めています。

駅前の高層タワーマンションの開発、再開発エリアの人気の高まりなどにより、「地方 × 高級住宅」という新たな不動産市場が静かに、しかし確実に広がりつつあるのです。

なぜ今、地方都市で高級マンションのニーズが高まっているのでしょうか。前編では、その背景にある都市構造の変化や社会の意識の変化、そして現状を探っていきます。

 

地方で進む再開発と企業のシフト

 

ローカル億ションブームの背景をみていきましょう。

 

地価・競争・働き方の変化から、企業が地方に目を向ける

 

多くの企業が、地価の高騰や用地不足といった理由から、都心での新規事業展開やオフィス設置に限界を感じるようになっています。代わりに注目されているのが、地方都市への進出です。

 

デベロッパーが注目する地方都市

 

  • 交通インフラが整備されている
  • 人口規模が30〜50万人と安定している
  • 地元人材の採用・定着に強みがある。

 

こうした都市では、ビジネスの展開とともに住宅需要も高まっています。

また、コロナ禍以降のリモートワーク普及により、「地元で働く」「暮らす場所を自由に選ぶ」という流れが加速。この動きが「住むなら便利な地元中心部で」と考える人々の後押しとなっています。

 

コンパクトシティの実現と再開発の加速

 

都市計画における重要なテーマである「コンパクトシティ」は、中心部に住宅や商業・公共施設を集約し、車に頼らず生活できる街づくりを目指すものです。

地方自治体と民間デベロッパーの協力によって進められる中心市街地の再開発では、

 

  • 商業施設
  • 公共施設
  • 分譲・賃貸マンション

 

このような機能が一体化され、住みやすさが大きく向上しています。

加えて「地方でも子育てしやすい環境が整っている」と評価される地域も増えており、教育施設や支援制度の充実が、若年層や共働き世帯の関心を集めています。

 

高齢者や地元住民の住み替えニーズの変化

 

地方都市では生活スタイルの変化や高齢化の進行に伴い、郊外の住宅から利便性の高い中心部への住み替えを希望する声が増えています。

 

高齢者の住み替えニーズが加速

 

これまで郊外の一戸建てで暮らしていた高齢者の間では、車の運転をやめたいという思いや、病院・買い物・行政サービスを徒歩圏内で済ませたいというニーズから、駅前や中心部のマンションへと移り住む人が増えています。

この流れは個人の暮らしの変化にとどまらず、「郊外の住宅を売却 → 中心部の新築・中古マンションを購入」という地域内での不動産循環にもつながっています。

 

暮らすための価値を重視

 

都心の高級マンションが投資目的で購入されることが多いのに対し、地方の億ションは「実際に住む」ことを前提とした実需目的の購入が主流です。

 

  • 生活動線の良さ
  • 医療・買い物などへのアクセス
  • 管理体制やセキュリティの安心感

 

といった、日常生活に直結する快適性や機能性が重視されており、住まいとしての本質的な価値が求められています。

 

地元富裕層のニーズ

 

地方の億ション市場では、地元の名士や企業経営者層が主な購入者層となっています。彼らが求めるのは、高層階からの眺望、高級感のある仕様、ラウンジ・ゲストルームなどの共用施設の充実など、都心の高級物件に匹敵する品質とステータス性です。

また、月に数回東京や大阪などに出張する人も多いため、新幹線停車駅に近いことは非常に重要な条件となっています。

 

地方の億ション市場の現状

 

全国の地方都市では、億ションの分譲が実際に進み、着実に実績を残しています。

 

主な事例紹介

 

  • 岡山県岡山市:「プラウドタワー岡山(地上31階・422戸)」の先行販売(164戸)は2023年末に完売。最高価格は約3億7,000万円、倍率は最大8倍。
  • 福井県福井市:「ザ・福井タワースカイレジデンス」(地上28階・118戸)が完成。北陸新幹線延伸で注目。
  • 香川県高松市:2024年1月に完成した20階建てマンション(54戸)が全戸完売。
  • 福岡県福岡市:全戸1億円超のプロジェクトも登場。
  • 沖縄県那覇市(首里城周辺):リゾート型高級マンションが高評価。

 

まとめ

 

新幹線や空港といった交通インフラが整い、一定の人口規模と都市機能を備えた地方都市では、「ローカル億ション」は一時的なブームにとどまらず、社会構造の変化を背景に、新たな住宅市場として着実に定着しつつあります。

ただしその一方で、今後この市場が持続的に発展していくためには、売却時の資産価値や地域に根ざした住宅戦略が重要な鍵を握ることになるでしょう。

後編では、こうした課題やリスクに加えて、半導体特需や観光需要などの外部要因、不動産デベロッパーの地域戦略まで含めながら、地方の高級住宅市場が迎える次のフェーズを詳しく掘り下げていきます。

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