4,000億円規模の私募ファンドを新設!丸紅×第一生命 新ファンド誕生の裏側【前編】

2025年7月1日、総合商社の丸紅と生命保険大手の第一生命ホールディングスが共同出資で新会社「第一ライフ丸紅リアルエステート」を設立しました。
出資比率は50:50。両社が保有する不動産事業会社7社を統合し、不動産開発・運用の中核企業として始動しています。
この新会社が運用する第一号ファンドは総額4,000億円規模。不動産投資の潮流や異業種連携の未来を占う上で、注目度の高いプロジェクトです。
本記事の前編では、新ファンド設立の背景、それぞれの企業の不動産事業、そして過去の異業種連携の成功事例について解説します。
なぜ今、この2社が手を組んだのか?
丸紅と第一生命は、2024年6月に不動産分野での戦略的提携に関する覚書を締結し、その後協議を重ねてきました。背景には、国内外の市場環境の変化と、投資戦略の多様化ニーズがあります。
市場環境の変化
金利上昇
日本銀行は2024年3月にマイナス金利を解除し、短期政策金利を0〜0.1%に引き上げ。
さらに2025年1月には「無担保コール翌日物をおおむね0.5%に誘導」へ追加利上げを実施。
YCC(長短金利操作)終了後は長期金利も上昇し、2025年8月時点で10年国債利回りは約1.5%で推移しています。これにより借入コストが上昇し、不動産事業の収益性を圧迫しています。
インフレと円安進行
欧米中央銀行による利上げ継続で金利差が拡大し、円安が加速。輸入物価上昇が建設コストや不動産価格を押し上げています。
投資戦略の多様化ニーズ
需要変化への対応
働き方改革によるテレワーク定着でオフィス需要が変化し、新たな開発テーマが求められています。
環境対応の強化圧力
2050年カーボンニュートラル達成に向け、省エネ型・脱炭素型不動産開発が不可欠になっています。
こうした環境下で、商社の開発力とネットワーク、生命保険会社の長期安定資金と資産運用ノウハウを組み合わせることが最適解と判断されました。
スケールメリットと相互補完
統合後の不動産運用資産残高は1兆7041億円(2024年末時点)と業界有数の規模です。
これによりアセットマネジメント(不動産投資・運用・保全)からプロパティマネジメント(運営・管理・価値向上)まで一貫して提供可能になります。
今後5年以内に複数の不動産ファンドを組成し、運用資産残高3兆円規模を目指し、三井不動産・三菱地所に次ぐ業界トップ3入りを目指しています。
第一生命の不動産投資戦略
第一生命は1990年代から不動産投資を行い、2000年代以降はポートフォリオの多様化を加速。
2022年3月時点で不動産投資額は約2兆円(資産全体の約10%)を国内外のオフィス、住宅、物流施設、再エネ関連施設に幅広く投資しています。
他の保険会社では、明治安田生命が約3兆円、東京海上日動が約1兆円(2023年度末)を運用しており、不動産は生命保険会社の長期安定運用に欠かせない資産クラスといえるでしょう。
丸紅の不動産事業
丸紅は1960年代から不動産事業を展開し、1990年代以降は投資を拡大。2023年時点で不動産関連資産は約1兆円超となりました。
国内外で住宅・オフィス・物流施設・高級マンション開発を手がけ、アメリカやアジアでも実績をつくりました。
近年は環境配慮型開発や再エネ導入にも注力し、持続可能な都市開発を推進しています。
異業種連携の成功事例
都市再開発から海外投資ファンドまで、それぞれの企業が持つ強みを掛け合わせたプロジェクトが、日本経済にもたらしたインパクトを見ていきましょう。
住友生命×三井不動産(日本橋再開発)
自社保有地を基盤に大規模再開発を実施。
2004年に日本橋三井タワー、2010〜14年にCOREDO室町1〜3を開業。
総事業費は累計約5000億円で、周辺地価は10年間で約40%上昇しました。
経済波及効果は1兆円超(東京都試算)とされています。
住友商事×明治安田生命(海外不動産投資ファンド)
2016年設立し、北米・アジアの主要都市に投資。
運用額は当初約3000億円から2024年には5000億円超へ拡大。
平均利回りは5〜7%(現地通貨ベース)と好調です。
まとめ
新会社は第一生命の安定資金と丸紅の開発力を融合し、国内不動産全般を対象にしつつ、開発型プロジェクトにも積極的に参入予定です。
後編では、新ファンドの具体的な投資対象、市場への影響、投資家から見た魅力や注目ポイントを詳しくお伝えします。