確定拠出型年金改正でどう変わるのか?【前編】

国は公的年金(国民年金・厚生年金)だけでは将来の生活に不安があることを背景に、確定拠出年金制度を整備してきました。
個人型確定拠出年金「iDeCo」は、たびたび制度改正が行われており、今回の改正もメリットと注意点の両方があります。
すでにiDeCoを使っている方だけでなく、これから始めようかなと思っている方にも重要な改正内容ですのでチェックしてみてください。
改正予定の主なポイント
まずは金額面で大きな改正となります。(2027年1月~予定。)
※国家公務員・地方公務員共済は8,000円、私学共済は7,000円を差し引いて上限を計算します。

加入・拠出の条件
●改正前
加入できるのは20歳〜65歳未満。
●改正後
加入できる年齢が70歳未満まで拡大(ただし老齢基礎年金や、iDeCoの老齢給付金を受け取っていないなど一定の条件あり。)
この変更は2028年頃までに段階的に実施される予定です。
受取時のルール
●改正前「5年ルール」
退職金の受け取りまで5年以上空けると、iDeCoと退職金の両方に退職所得控除が使えるという税制上のお得な仕組みです。
●改正後「10年ルール」
2026年1月からは5年から10年に延長される予定。
退職所得控除だけでお得になることが困難に。
メリットとデメリット
改正で得られるメリット・デメリットを整理しましょう。
メリット
●節税効果の拡大
自営業者やフリーランス・国民年金第1号被保険者は、拠出上限が増えることで所得控除をより大きく受けられるようになります。
●長く資産運用できる
定年延長や65歳を超えて働く人が増えている今、70歳未満まで加入できるのは大きなメリットです。積立期間が長ければ、運用の複利効果もさらに期待できます。
デメリット
●税負担が重くなるケースも
「5年ルール」が「10年ルール」に変わることで、退職金とiDeCoをうまく組み合わせられない場合、税負担が増える可能性も。
●制度が複雑に感じられる
自分の区分や受け取り時のタイミングなど、考えることが増えるためシミュレーションなしでは最適解が見えにくくなってきました。
出口戦略をどう考える?
お勤めの会社に退職金制度がない方には大きな影響はありません。
退職金がある場合は 「退職金とiDeCoの受け取りタイミングをどうするか」 がとても重要になります。
iDeCoの受け取り方は3つ。
- 一時金(最も多く選ばれている方法)
- 年金形式(公的年金が多いと課税面で不利)
- 一時金+年金の組み合わせ
一時金受け取りのシミュレーション
例えば退職金が2,000万円を超える公務員や大企業の方が、iDeCoで月1万円積み立てるケースを見てみましょう。(※運用手数料は計算に含めません)
- 35歳から65歳まで30年間積立
- 平均年収800万円を想定
- 投資元本:1万円×12カ月×30年=360万円、5%運用で 約800万円に成長
- 節税効果:約100万円(30年間で)
退職金が2,000万円を超える場合、退職所得控除額が変わってくるため定年とする年齢がキーポイントとなります。 - 25歳~60歳まで35年勤務 → 退職所得控除 1,850万円
- 25歳~65歳まで40年勤務 → 退職所得控除 2,200万円
「65歳定年とし、iDeCoと退職金を同時に受け取る」ケース。 - iDeCo+退職金=合計 2,800万円 を一時金で受け取ります。
- (2,800万円ー退職所得控除額2,200万円)×2分の1→ 課税退職所得は300万円。
このケースだと所得税と住民税で、受け取り時に約50万円程度の支払いが発生します。
つまりiDeCoを60歳、退職金を65歳に分けて受け取ると退職所得控除が60歳の額面になってしまうため、税負担が大きくなります。
また掛金払込中の節税効果(約100万円)があり、この分で税金をまかなえます。さらに新NISAで運用すれば(3.3万円×30年)約224万円プラスです。
iDeCoを長く利用している人は、掛金を減らす・債券比率を増やすなどリスクを和らげる工夫も必要です。
このように退職金額や勤続年数をしっかりシミュレーションし「どの受け取り方が一番有利か」を早めに考える必要があります。
新NISAとの使い分けも大事
iDeCoは年金制度のため原則途中で引き出せませんが、新NISAなら流動性が高く出口戦略に頭を悩ませる必要もありません。
もし新NISAの1,800万円枠が空いているなら、まずはそちらを優先するのも賢い選択です。
まとめ
iDeCoの改正は「利用できる人の幅を広げ、公平性を高める」という意味でとても前向きな内容です。
一方で、受け取り時の税制ルール(10年ルール) は思わぬ落とし穴になる可能性も。
長く働きたい人には朗報ですが、制度が複雑になるため出口戦略は早めに考える必要があります。
次回の後編では、企業型DC(企業型確定拠出年金)の改正についてお伝えします。
企業もどんどん導入を進めているので、こちらも見逃せません。