個人投資家に広がる新たな選択肢「不動産デジタル証券」【後編】

前編では、少額から始められる新しい不動産投資「不動産デジタル証券(不動産ST)」について、その仕組みやメリット、他の投資との違いをお届けしました。
そして後編では、この新しい投資のかたちがなぜ今注目されているのか、どこまで広がっているのか。これからどう進化していくのかを分かりやすく解説していきます。
これからの資産形成を考える上で知っておきたい、最新の市場動向と将来展望を一緒に見ていきましょう。
法整備の歴史と現在の動き
不動産STという新しい投資手段を広げるため、国も制度づくりを進めています。
2019年の「金融商品取引法」改正をきっかけに、デジタル証券に関するルール作りが始まり、2021年には契約や通知をすべてオンラインで完結できる仕組みが法的に認められました。
これにより、これまで紙で行っていた手続きをデジタルで完結できるようになっています。
さらに、2024年に発表された税制改正案では、トークンから得た利益の一部を「税金がかからない元本の払い戻し」として扱う方向性も示されました。これが実現すれば、手元に残る利益が増える=投資家にとって税制面でも有利になります。
ただし、これらはまだ「方針案」の段階で、法改正の成立と施行は2025年〜2026年以降になる見通しです。
日本市場での広がり
不動産STは日本ではまだ新しい仕組みですが、成長スピードは非常に速いです。
2021年に初の案件が発行されて以降、これまでに1,500億円以上のトークンが発行され、鑑定評価額ベースでは約3,400億円に達しました。
証券会社、不動産会社、金融機関、スタートアップまで、幅広い事業者がSTを活用した商品開発に乗り出しており、投資家向けの選択肢も増えています。
業界をリードする動向「SHOEGAZE」
スターツアセットマネジメントは、不動産ビジネスで培った経験を活かして、不動産STを活用した投資商品「SHOEGAZE(シューゲイズ)」を展開しています。
この商品は1口1万円(最低10口から)という少額から始められるのが特徴です。投資初心者でも参加しやすく、スマホで完結するという点からも、NISAやiDeCoと並ぶ次世代の資産形成手段として注目されています。
取引の自由度を高める新たなインフラ「START市場」
2023年には、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営する「START市場」がスタートしました。
これは、日本初の不動産ST専用の売買マーケットで、証券会社を通じてトークンを取引できる仕組みが整えられたものです。
それ以前は、STを購入した個人投資家が売却したい場合、証券会社を通じて個別に買い手を探すか、証券会社の提示する価格で売却するしかない状況が多く、売買の自由度が低いという課題がありました。
しかし「START市場」の誕生により、あらかじめ審査を通過した銘柄のみが上場され、適時の情報開示も行われることで、個人投資家でも安心していつでも売買できる環境が整い始めています。
2025年3月時点では6銘柄が取引されており、今後もさらなる銘柄追加が期待されています。
ただし現在の制度ではJ-REITと異なり、不動産STは「特定有価証券」に該当しないため、インサイダー取引に関する法的規制が一部適用されないという課題も残されています。
これに対し市場の健全性を保つため、ODX主導での自主ルール策定が検討されており、透明性や公正性の強化に向けた動きが進んでいます。
不動産STの未来展望
不動産STは、これからの私たちにとってさらに身近で柔軟な投資手段へと進化していくと考えられます。
少額から投資できる特長により、不動産投資=まとまったお金が必要というイメージを覆し、より多くの人が気軽に不動産での資産形成を始められる時代になるでしょう。
将来的には企業が自社ビルや施設などをトークン化し、投資家から資金を集める事例も増えて、株式や社債に次ぐ「第3の資金調達手段」としての役割を担う可能性を秘めています。
まとめ
不動産STは、テクノロジー × 不動産 × 金融のかけ合わせによって生まれた、次世代の投資商品です。
法整備・市場の拡大・企業の参入といった要素が揃い、いままさに個人投資家の手が届く投資先として急成長中です。
スマホで手軽に始められて、しかも裏付けのある「不動産」という資産に投資できる安心感もあります。
将来的には、若年層やこれまで投資に縁がなかった人々にも広がり、誰もがデジタル証券で資産形成を行う時代が来るかもしれません。
