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2025/11/04 17:02

ペロブスカイト太陽電池から見える日本の未来【前編】

日本は資源に乏しい国であり、石油や天然ガスなどのエネルギーの多くを海外からの輸入に頼っています。
その結果、経済的な負担が増大し国民生活への影響も大きく、長年の課題とされています。

そんな中、今もっとも注目を集めているのが「ペロブスカイト太陽電池」です。

これは桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らが研究をリードしてきた次世代型の太陽電池で、軽く・薄く・柔軟性があり、しかも高効率というまさに未来のエネルギーを象徴する技術です。

経済産業省の予測によると、この市場は2023年の約600億円規模から、2040年には2兆円超へと拡大する見通しです。
本稿では、ペロブスカイトの特徴、日本政府の戦略、そして未来展望をわかりやすく解説します。

 

ペロブスカイトが注目される理由

 

日本のエネルギー自給率は2022年時点でわずか12.6%。OECD38か国中37位という極めて低い水準です。
政府は2040年までにこれを3〜4割へ引き上げる方針を掲げ、再生可能エネルギーの導入拡大を進めています。

中でも太陽光発電は、すでに国内電力量の11.3%(2023年度)を担うまでに成長しました。
しかし、日本は平地が少なく、メガソーラーを設置できる場所が限られています。

その制約を打破するのが、都市空間を活かせるペロブスカイト太陽電池です。
ビルの壁面や窓、工場の屋根などこれまで発電には不向きだった場所を、発電所へと変える可能性を秘めています。

ペロブスカイトの3つのタイプ

ペロブスカイト太陽電池は、構造や素材の違いによって用途が大きく異なります。

  • フィルム型
    薄く軽く曲げられるのが特徴なため、衣服やIoT機器にも応用可能。体育館や軽量屋根にも設置できるため、非常用電源としても活躍します。
  • ガラス型(建材一体型/BIPV)
    窓や外壁そのものが発電装置となるため、景観を損なわず都市部にも設置が可能です。
  • タンデム型
    シリコン太陽電池と組み合わせて効率を高めるため、既存設備を活かしつつ性能を向上させられます。

 

3つの課題と現状

 

高いポテンシャルを持つペロブスカイトですが、商用化には次の課題があります。

  • 発電効率
    シリコン系が約26%に対し、ペロブスカイト(フィルム型・ガラス型)は15〜21%程度。
    ただし研究段階では30%超の報告もあります。
  • 耐久性
    シリコン系の耐用年数が25〜30年であるのに対し、現状は10年程度。環境ストレスへの耐性向上が課題です。
  • 鉛の使用
    光吸収層に微量の鉛を使うため、破損・廃棄時の環境リスクがあります。現在はスズやビスマスを使った無鉛型の研究が進行中です。

 

国内企業の挑戦

 

ペロブスカイトは「日本発の希望のエネルギー」として、多くの企業が研究開発を進めています。

 

積水化学工業
屋外耐久性10年を実証済み。2025年末までに20年耐久を目指し、大阪・関西万博の玄関口に250m超の発電設備を設置しました。
 

トヨタ × エネコート(京大発スタートアップ)
EV屋根用の曲げられるタイプを共同開発。ペロブスカイト単独で22.4%、シリコンとのタンデムで30.4%の変換効率を達成。EVの航続距離延長に貢献が期待されています。
 

パナソニックHD
建材一体型「発電するガラス」を2026年から試験販売予定。変換効率は18.1%。
 

住友重機械工業
酸化スズを用いたRPD法で低コスト量産化を研究中。2030年以降の実用化を目指しています。
 

政府の戦略と支援

 

設置義務化や補助金制度、研究支援など、多方面からの後押しが進んでいます。

 

設置義務化
2026年度から、原油換算1,500kL以上の事業者に屋根置き太陽光の導入目標策定・報告を義務化します。導入機器が中国製か日本製ペロブスカイトかはまだ未定です。
 

東京都の補助制度
2025年4月から延床2,000㎡未満の新築建築物に太陽光設置を義務化されました。補助金制度「東京ゼロエミ住宅」では交付金が戸建て40〜240万円、集合住宅30〜200万円です。
 

タンデム型支援
老朽化した家庭用パネルの更新期に合わせ、グリーンイノベ-ション基金で住宅用タンデム型を推進しています。

 

日本の未来展望

 

日本では、中国のように広大な土地を使ったメガソーラー展開は困難です。しかし、ペロブスカイトが普及すれば、都市の建物自体が発電装置となります。
ビルや家庭の屋根・窓が発電し、EVが「走る発電所」になります。工場や学校の屋根発電は非常電源にもなり、地震国の日本でも安心です。

このように限られた国土を最大限に活かすことが日本らしいエネルギー革命であり、今後は新たな製造業や雇用を生み、経済安全保障の強化にもつながっていくでしょう。
 

まとめ

 

ペロブスカイト太陽電池は、エネルギー安全保障・経済成長・気候変動対策のすべてを同時に解決しうる「ゲームチェンジャー」です。
後編では、海外動向・中国の台頭・日本の資源と再生戦略について詳しく掘り下げます。

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